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「巳よ。お前はそうだから百済でも苛められたのだ。せめて責務は全うせよ。それが親孝行というものであろう」
阿宜は息子を叱責するが、彼は黙ったまま俯いていた。
間もなく百襲姫が宮へ戻りましょうと宣った。
阿巳も渋々と踵を返した折、馬上から百襲姫が声をかける。
「本当に休憩なら、そういえば良いでしょう」
妙なことにその声は、阿巳にしか聞こえてはいないようである。事実、父らはまるで気にする素振りを見せない。阿巳が驚いていると、彼女は懐から蜈蚣を取り出した。うにょうにょと蠢くそれを摘まみ上げると、すっと彼の襟元へ忍ばせる。
「……っ!?」
阿巳は驚いたはずだが、悲鳴さえ彼女に奪われていた。
「ふふふ。稲生みたいに卒倒はしないわね。じゃ、これからものははっきり言いなさいね。さもなくばその子に噛まれるわよ」
百襲姫は悪戯っぽく笑うと、馬の腹を蹴って駆け出す。阿巳が呼吸を整えた頃には、既に姿が見えなかった。
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