あなただけ見つめてる

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そしてバッグの中から、もう一つ。 まだ新しい、真っ赤な革表紙の手帳を取り出した。 この手帳は、先月、高校卒業以来数年ぶりに徹也先輩にコンビニで再会した後に買ったものだ。 その手帳を開き、今度の「飲み会の約束」と書かれたページに、この時のために新しく買ったシャイニーピンクのボールペンで、大きく花丸を描いた。 「ふふっ。スタートから幸先いいな。でもまだ先輩とのまだ果たされていない“約束”、たくさんあるからなあ…。 高校の時の“バイト代が入ったら5万円返す”って約束もまだ果たしてもらってないし、中学生の時の、“第二ボタンくれる”って約束も、小学生の時の、“お前んちの薄いカルピスより美味しいウチのカルピス飲ませてやるよ”とか、“今度カブトムシ捕まえに行こう”ってのもまだ。 やだ。 まだ果たしてもらってない約束がたくさんあって、時間が足りないよ」 私はニヤけながらそう独り言を呟き、先輩が残したコーヒを飲みながら、1ページに一つづつ“まだ果たされていない約束”が書かれたその手帳のページを、最終ページ側から順に繰っていった。 そして、初めて二人の間で交わされた約束の書かれた1ページ目にたどり着くと、手を止めて目を閉じた。 ---早くしなきゃ。 私に残された時間は少ない。 その前に、私との約束を果たしてもらうんだから…。 私は、その1ページ目に書かれた、お互いがまだ名前で呼び合っていた幼稚園児の時の“約束”を、声に出してもう一度読み返した。 「オレ、春香ちゃんと結婚する!」 ---ふふっ。先輩…、徹也くん、この約束は覚えてるよね?
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