白よりのグレー

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 「お誘いありがとう」  「こちらこそ付き合っていただいてありがたいです」  男性はすぐに椅子から立ち上がると荷物を持ってこちらにやってきた。影になっていたのでよくわからなかったが、普通にイケメンだった。  いや、悪くないとは思ったけどここまでイケメンとは思わなかった。  どちらかと言えば濃い醤油顔の渋みがある。KーPOP好きならアウトだが、千佳子は純和風な顔立ちは嫌いじゃない。  「なんとお呼びすればいいですか?」  「なんかキャバクラに来た気分だな」  「ええ?!」  「嘘だよ。槇です。槇浩平(まきこうへい)」   さりげなく揶揄われて千佳子は少し焦った。でも嫌な揶揄いじゃなかった。  しかも笑うとすごく懐っこい笑顔になる。    さりげなく左手の薬指をチェックした。ノーマークだったが、この際こういう出会いもありだ。指輪をしていないことを確認して内心ガッツポーズをする。  でも、指輪をしない既婚者もいる。だから油断は禁物だ。ただ彼からはあまり家庭臭はしない。女慣れはしてそうだ。  この年でリスキーなことはしたくない。  仲良くなって彼の部下や友人を紹介してもらおうと下心が働いた。  「春日井千佳子です。槇さん、とお呼びしても?」  「うん。春日井さんって初めて聞いた。どんな字書くの?」  槇浩平、43歳。  オフィスや店舗の内装デザインの企業で勤めているサラリーマン。この店は会社から近いらしく週3ぐらいで来ているという。  昔はよく歌舞伎町なども行ったが最近はのんびりしっぽりと飲みたいらしい。  お酒を飲みながら仕事の話で盛り上がった。  どちらも管理職というだけあり悩む部分は同じだった。  同志を見つけた気になり、ついつい口が滑らかになる。  目標設定、評価制度。上司の言葉ひとつでメンバーのモチベーションは変わる。そんな愚痴をつらつら並べながら気がつけばプライベート話に移っていた。   「クタクタで帰って『おかえり。ご飯できてるよ』って優しく包み込んでくれる男、どっかに転がってないかなー」  飲み始めて2時間。いい感じに砕けてきた。  千佳子の理想に浩平は吹き出して笑う。  「それなら俺だって『おかえり。ご飯できてるよ』って笑顔で迎えてくれる可愛い嫁さん欲しいよ」  つまり、未婚。もしくはバツイチ。千佳子は逸る鼓動を抑える。  「最近友人に子どもができて。すごく幸せそうなんです。大変って言ってる割に楽しそうで」  「俺もさー、可愛がってた後輩が知らぬ間に父親になっててさ。サイレントだぜ?ひどくねえか?」  「言って欲しいですね!それは!」  「だろう?言えよって言ったら『今来られると迷惑なんで』って」  「酷い」  「だろ?だろ?昔から可愛げのない奴だったけど大人になって余計に可愛げがなくなってさ」  「奥さん大変ですね」  「それがそうでもないんだよ。奥さんにはデレデレしてるらしくてさ。俺には冷たいのに」  むすーと槇が拗ねた。年上なのに感情をしっかり出す彼に千佳子はいつも取り繕っていた鎧を脱いだ。    
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