麗しのオディール

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麗しのオディール

 はじめて社交界に出たあの日から、私の心は沈み込んだままだった。  華やかな社交界で、みんな華やかに着飾って、令嬢達はみんなきれいだった。  私も、お母様お気に入りの仕立て屋に作らせたお気に入りのドレスを着て社交界に行ったのに、その場にいたみんなが見たのはドレスではなく私の顔だった。  荒れた肌に高すぎる鼻。その鼻の先はおしろいでも隠せないほどに赤らんでいて、それを見たみんなは鼻に紅など差さなくていいのにと私を笑った。  何度か社交界に出るうちに、誰も私のことを名前では呼ばず、あだ名で呼ぶようになった。  付いたあだ名は『サフラワー』  鼻にも紅を差すほどサフラワーが好きなのだろうと、みんな口々に言った。  令息達はみんな私のことを遠巻きにするかからかうばかり。話し掛けてきたかと思ったら、私よりもきれいな雑草をこの前見掛けただとか、そんな話だったりした。  そんなわけだから当然私のことを妻にしたいという令息はひとりもいなかった。私の家はそこまで身分が高いわけでもないので、醜い私と結婚するメリットなどなにひとつとしてないのだろう。  社交界に行く度に笑われて、女からも男からもあれだけ馬鹿にされて、くやしくないはずがなかった。  お父様とお母様は私のことを心配してくれた。社交界で私が馬鹿にされていることに、いつも心を痛めていた。  だから、私は少しでもきれいになろうと一生懸命使用人に化粧をさせた。おしろいも厚く塗った。  でも、おしろいを厚く塗って口紅と頬紅を差すと、より一層肌の荒れが目立ってしまうし、元々造作のよくない私の顔が余計に滑稽になるだけだった。  こんな顔で社交界に行ってこれ以上馬鹿にされたくない。お父様とお母様をこれ以上傷つけたくない。そう思えば思うほどに落ち込んでいって、ついに私は社交界に行くことをやめてしまった。  お父様とお母様は、そんな私を見て悲しんだけれども、私を社交界に連れて行こうと無理強いをすることはなかった。ただ、また社交界に行きたくなったら、いつでも言ってほしいとだけ私に言った。  社交界に行かなくなってから、新しいドレスもほとんど仕立てず、持っている服は流行遅れのものとなった。  でも、別に流行なんてどうでもいい。私はすこし古めかしいものが好きなのだから。
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