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第五話 七月「桐始結花―きりはじめてはなをむすぶ―」
暑い。
風鈴の音がりーんと部屋に響くので、きっと風は吹いているのだろうが、私には微塵も涼しさが感じられなかった。
まだ七月だというのにこの暑さ。日本家屋で八月の夏が越せるのだろうかと心配になる。
先生の家にはエアコンが無かった。
この日本において、エアコンが無い家は東北にしか存在していないと思っていたが、どうやらここ東京の下町にも存在していたようだ。
先生と一度「エアコン会議」を開いたが、先生は「扇風機で充分」と言って曲げなかった。風情はもちろん大切だ。わかる。私もこの家が大好きだ。しかし、それとこれとは別だと思う。
先生はというと、私のことは気にも留めず、涼しい顔で縁側に打ち水をしたりする。着物の先生が水を撒く姿は、風情そのものといった光景だった。そんな先生の姿をじっと見つめていると、心が癒されるような気もするのだ。
極めつけはハッカ油。ドロップでしか知らなかったけれど、ハッカ油はお風呂に入れるらしい。温度は変わらないはずなのに、スースーとした清涼感が夏のお風呂場に爽やかさをもたらしてくれる。
先生の夏の暮らしの工夫に触れるうちに、結局、扇風機を回し続けている私がいた。それでも私が第二回会議の開催を目論んでいることは、先生にはまだ秘密だ。
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