#あの日の約束

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 ヘアサロンとコーヒーショップを通り過ぎて、空き店舗のシャッターを左手に曲がり小道へ入る。いかにもな、寂れた裏通り。ひと缶百円の飲料自動販売機、日焼けたポスターが貼られた化粧品店、三台しか停められない月極駐車場……。  住所からすればこの辺りにあるはずなのだけれど、全然見当たらない。もう商店街の一画を三周ほどしているが、目的の場所はどこにもない。教えてもらった住所が間違っているのか、移転でもしたのか、それとも閉店したのか。  歩みを止めて、残暑の日差しに噴き出した額の汗を拭いながら、僕はため息をつく。 「はあ……もう帰るか」  振り返って一歩踏み出した視線の先に、小さな張り紙を見つけた。民家とアパートの隙間にある、勝手口とおぼしき引き戸。その左端には、まるで七夕の笹に下げられる短冊程度の和紙が貼られていた。風雨にさらされてにじんだ、稚拙な筆文字が書かれている。 『失セモノ出ル』  シミだらけの板戸に錆びた取っ手。これを開けるには、相当な勇気が必要だった。知人の「絶対に探し出してくれる」という言葉を信じて、手に力を込める。
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