第1話 人、拾いました

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 ウィリス王国と言う名の王国の南の辺境にある深い森。通称『魔の森』に私は一人で住んでいる。  いや、一人と言うのは語弊があるかもしれない。一匹の使い魔と共に一人と一匹で暮らしている。ちなみに、時々人里に降りているので完全に一人と言うことではない。 「ふわぁ、ベリンダ。今日も薬草探しに行ってくるわ。留守番をよろしく」 「わかった!」  使い魔であるベリンダにそう声をかけて、私は住処として使っているちっぽけな小屋を出て行く。  フルール・フライリヒラート。それが私の名前だ。フライリヒラートなんて大層な家名を持っているけれど、実際のところ私は親の顔など知りもしない。  私は物心ついた時にはこの『魔の森』に捨てられていて、そこを先代の魔女に拾われた。そして、彼女の弟子にしてもらった。それだけ。  でも、フルール・フライリヒラートと言う名前をその師匠が付けてくれたわけではない。どうやら、師匠が拾った時にはおくるみのなかにネームプレートのようなものが入っていて、そこに書かれていた名前だそうだ。……つまり、私は少なくとも生みの両親に愛されていなかったわけではない……らしい。想像だけれど。  今から二年前に師匠が亡くなり、私は薬師として生計を立て始めた。師匠がくれた薬の知識はとても素晴らしいものであり、今では人里で委託の薬屋を開いているほど。  ……けれど、さすがにベリンダとの一人と一匹の生活が寂しくないと言えば嘘になる。今まで師匠と共に過ごしていたせいなのか、ちっぽけな小屋がひどく広く感じてしまう。
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