君じゃない!

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「申し訳ございません。旦那様が大変な無礼を申しまして」 「いいえ。わたしがリーザじゃないのは事実ですから」  わたしは肩を落とすと、そっと目を伏せる。 「まさか、こんなに早く正体が知られてしまうとは思っていませんでした。  皆さんを騙してしまって、申し訳なく思っています……」 「リーザ様、いえ、貴女は……」 「わたしの名前は、ルイーザ・センティフォリアと言います。リーザの双子の妹です」 「そうでしたか……。それでは、ルイーザ様。お部屋にご案内します。まずは身体を休めて下さい。詳しい話は後ほど伺います」  わたしは老執事が呼んでくれた若いメイドに連れられて、部屋に案内された。  しばらく、案内された客間の窓から外を眺めていると、扉がノックされたのだった。 「失礼します」  扉が開くと、先ほどの老執事が入って来たのだった。 「ルイーザ様、お茶をお持ちしました」 「ありがとうございます。丁度、喉が渇いていたので嬉しいです」  老執事はカートを押しながら入って来ると、白いテーブルクロスが敷かれたテーブルの上に、琥珀色の紅茶と数枚のビスケットを乗せた皿を並べたのだった。 「我が領地で採れた茶葉を使用した紅茶です。ビスケットはこの近くで採れた小麦を使用しております」  琥珀色の液体が入ったカップに口をつけると、ほのかに甘い香りが漂った。 「美味しいです」 「嬉しいお言葉をありがとうございます」  カップをティーソーラーに戻すと、テーブルの上に置く。 「怒っていないんですか。リーザじゃなくて、わたしが来て……」 「いいえ。私共は全く気付きませんでした。事前にいただいていた姿絵と非常にそっくりでしたので」  すると、老執事は「ああ」と思い出した様に、胸に手を当てて一礼する。 「申し遅れました。私の名前は、コナー・ホセと申します。  このオステオン侯爵家に代々仕えているホセ家の者です。どうぞ、ホセとお呼び下さい」 「代々、侯爵家に……。という事は、侯爵様についても?」 「はい。旦那様の噂も存じております」  先ほど、わたしの正体を見破った隻眼の男性ーーヴィオン・オステオン侯爵は、このサンフクス王国で有名な変人侯爵であった。  今から七年前、ここサンフクス王国では大きな戦争が起こった。  戦争はサンフクス王国の勝利で終戦したが、多くの死傷者が出てしまった。  その戦争で、オステオン侯爵家は本来の跡取りであった侯爵様の実兄を失った。  また、後に侯爵となる侯爵様自身も、自らの左目を失ったのだった。  それが原因かは分からないが、戦争から帰還した侯爵様は、ある物を収集するようになった。  そのある物こそ、先ほどわたしの正体を見破り、安産型と言われるきっかけにもなったーー骨であった。  古今東西、脊椎動物の骨を集めては、白亜の城の自室に引きこもって骨を飾る。  公務を行っても、それが終わるなり、寝食を忘れて骨を愛でる。  そんな骨を愛する侯爵様を、いつしか人々は「変人侯爵」と呼ぶようになったのだった。
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