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七年前の戦争で、騎士志願者だった侯爵様ーー当時はまだ侯爵ではなかったが。は、前線で戦っていたが、戦争の激化に伴い、後方からの補給が途絶えるようになった。
このまま補給が途絶えてしまえば、サンフクス王国は負けてしまうだろう。
侯爵様は騎士団に所属する騎士たちと共に、補給路を確保に向かったのだった。
「ヴィラン。お前、まだここにいるのか」
前線に届ける物資の用意をしていると、余裕綽々と言った様子で実兄が声を掛けてきたのだった。
「お前は前線に出なくていいのか」
「俺は……補給路を確保するのが役割だから」
「なんだ。前線にも出させてもらえないのか。可哀想だな」
実兄は侯爵様よりも整った顔立ちを歪めて、わざとらしく悲しむ様な、憐れむ様な顔をすると、拠点としている天幕の中へと戻って行った。
侯爵様は物資を乗せて、天幕に背を向けた時だった。
大きな地響きと爆発音が聞こえたと思うと、複数の断末魔の叫びと共に侯爵様と馬も爆発に巻き込まれた。
地面を転がると、近くの木に顔をぶつけたのだった。
「何があった!?」
近くには嘶き、乗せたばかりの物資が散らばっていた。
木にぶつけた際に左目を怪我したのか、左側は血に染まって見えなかった。
侯爵様が這う這うの体で拠点となっていた天幕に戻ると、火に包まれた幾つもの人影があったのだった。
「あ……あ……」
風に乗って硝煙の臭いがしてきたところから、補給路を断つために、敵が天幕に火薬を仕掛けたのだとすぐに分かった。
炭と化していく人影をどうする事も出来ずに呆然と見つめていると、火に包まれながらも侯爵様の名前を呼びつつ近づいてくる影があった。
「ヴィラン……」
「あ、兄上!?」
「た、助けてくれ……」
実兄はヴィランの前に倒れると、火に包まれた手を差し出してきて、繰り返し助けを求めてきた。
服が、肉が、臓器が、人が焼ける臭いが辺りに漂っていた。
「ヴィラン。助けてくれないのか……」
「俺は……俺は……」
そうして、迷っている間に実兄は息絶えた。火に包まれた実兄の服や肉は燃え尽きると、やがて骨へと化したのだった。
「俺は……」
その時、風に煽られて火のついた天幕が侯爵様に向かって飛んできた。
左側の視界が狭かった事もあり、反応が遅れてしまった。
避けきれなかった天幕が、顔の左半分に当たったのだった。
「あつっ……!?」
地面をのたうち回って、熱が引いた頃には、天幕が当たった左目は永遠に光を失っていたのだった。
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