カブトムシの箱

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カブトムシの箱

俺たちの前でアミはバラバラになった。    卒業式の帰り、駅のホームで何の前触れもなくアミは軽やかに宙を 舞い赤い飛沫を上げて空を飛んだ。  誰に言っても信じてくれないだろうが、俺はあの時宙に舞っていたアミと目が合った。その時の顔が二年経った今も忘れられないでいる。 *  アミは高校のクラスの中でも目を引く人物だった。 容姿は美人と言えるほどではなかったかもしれない。  ただ、気がつけばアミの姿に視線が吸い寄せられている。大人数の中にいても自然と目を向けてしまうそんな魅力のある女の子だった。  どこかショートカットの髪にどこかあどけなさの残る顔。強気な性格が見える吊り目がちなその瞳に俺は魅力を感じていた。憧れていたといっても良い。  アミはクラスの中心にいる人物というよりはクラスカーストの最上位の人間に好かれているようなタイプの女の子だった。というよりもクラスメイト全員が、同級生全員が、高校の先輩後輩多くの人間が彼女のことを好意的に見ていた。と思う。  それほど彼女は明るく誰とでも別け隔てなく話、社交的な人間だったからだ。そのサバサバした性格から男子からも女子からも好かれていた。もちろん、全員が全員彼女のことを好きだったということはないだろう。それでも彼女をアミを嫌いだった人間はいないあの学校にはいなかったと俺は断言できる。 「よう! 明石。このあとの二次会行くだろ?」  後ろから声を掛けてきたのは金髪のロングヘアの別所だ。首元のネクタイをすでに緩めてジャケットの下のシャツのボタンははだけて胸元が見えている。 「もう、ネクタイ緩めてるのかよ。成人式終わったばっかりだろうが」 「いやー。こういう堅苦しい格好嫌いなんだよ。知ってるだろ?」  別所は高校の時いわゆる不良と呼ばれるタイプの人間だった。とはいえ、 俺たちが通っていた高校は地元でもレベルの高い進学校だったので、不良と言っても見た目と素行が少し悪い程度ではあった。 「もう、二十歳になってるんだから身なりぐらいしっかりすればしなよ」  成人式の会場だった市民ホールの玄関から手を上げながら二人の人物が近づいてくる。加藤と土井だ。  加藤は身長が高くすらりと伸びた足に高そうな生地のスーツをきっちりと着こなしている。顔の容姿も整っていて学生の頃からモテていて、ファンクラブすらあったほどだ。  その横には対照的に背が低く、スーツも着ているというよりもスーツに着られている感じがするのが土井だ。目元を隠すように長い前髪が風に揺れている。 「そ、そうだよ。……もう社会人なんでしょ。不良とか格好悪いよ」  土井がぼそぼそとつぶやくと別所が大股で土井に近づくと肩を抱く。 「おーおー。相変わらず声ちっちゃいな!」 「別所が大きすぎるだけでしょ」 「違いない!」 「ほら、別所。あんまり体重かけるなよ。土井が潰れちゃうだろ」  別所が大きく口を開けて笑って土井が迷惑そうに顔をしかめる。ふたりをなだめるように注意する加藤。  高校の頃と変わらない友人達の姿に俺は小さく笑う。 「お前らは本当に変わらないな」  俺がつぶやくと三人がまっすぐにこっちをみて口を揃えて言う。 『いや、お前が一番変わってないよ。地味すぎ』 「うるせぇよ!」
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