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そんなある日。ぷっつりとユウコの手紙が途絶えた。それでも手紙は消えているので、ラブレターは書き続けていた。
それから数ヶ月後。会社の上司が入院したのでお見舞いに行った。
その病院でこんな言葉が聞こえてきた。
「南ユウコさんのお母さん、至急来てもらえますか」
慌てて振り返ると、看護士と年配の女性が歩いて行った。
その女性が出て来た病室を見ると『南ユウコ』の名札があった。彼女の名前だ。
面会謝絶だったが部屋を覗くと、人工呼吸器に繋がれた女性がベッドに横たわっていた。
「これは僕の!?」
その病室の壁一面にびっしりと、僕の書いた手紙が貼ってあった。
「あなたまさか……セイジさんですか?」
年配の女性が驚愕の表情で背後にいた。
僕は事故物件の部屋で茫然と立ち尽くしていた。年配の女性から聞いた話に動揺していたからだ。
女性は南ユウコの母親だった。ユウコはこの部屋で首を吊ろうとして途中で発見されたらしい。だが意識は戻らず、何年も植物状態で入院していたのだ。
ところが、彼女の上に手紙が降ってくるようになった。勿論、その手紙は僕の書いたものだ。
お母さんは娘を励ます意味で、手紙を病室に貼っていたと説明した。
ユウコは平行世界の住人ではなく、この事故物件に住んでいたのだ。
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