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029:恋の事情
森から開拓村へ。その移動途中のこと。俺はラーダに何気ない風を装って聞いてみた。
「なぁラーダ」
「おう」
「何で昨日、俺たちに声をかけたんだ?」
「ん? あ~心配だったからだ」
「他人の俺たちが、か?」
「ん、あ~……」
そう言って少し言い淀むラーダ。やはり何かあるようだ。一度、彼が俺の後ろを見る。なので俺も振り返る。そこにはジャックとハル。二人が楽しそうに会話をしている姿があった。
「なぁカセ」
「ん?」
「ハルとはどういう関係だ?」
ハルとの関係?
それがこの話に何の関係があるのか疑問に思ったが、俺は正直に答える。
「そうだなぁ。端的に言えば先輩後輩の関係だ」
「ほぉ?」
「まぁもう少し詳しく言えば、俺がここに来る前に働いていた職場の上司の娘さんだ」
「……それ以上ではない?」
それ以上?
「俺とハルがか?」
「そうだ」
「ないな。俺にとってハルは娘……というと上司に失礼だな。そうだな姪みたいなもんだ。故郷には分かれた女房の息子がいるんだが、まぁだいたい同じぐらいの歳だしな」
「それなら、恋人関係も成立しそうだが?」
「はは。まぁそう言うやつも居るだろうが……う~ん。出来れば勘弁願いたい。ハルには幸せになってほしいとは思うが、それは俺以外のやつとだ」
ラーダが沈黙する。俺の言葉の真意を探るような目だ。俺は言葉を続ける。
「まぁあれだ。もしハルを好きだって男ができたら、俺が上司に代わって立ちはだかりはするがな」
するとラーダが笑った。
「あっはっは。そうか。なるほど。そんな感じか」
「あぁ。で? この話はどう繋がるんだ?」
「ん? あぁ。その、だ。ジャックのやつがな」
「ハルを好きだってか?」
「あぁ、まぁ一目惚れだそうだぞ?」
「ほぉ」
「つまりは、まぁそういうことだ」
「なるほどな。じゃあ俺はジャックを見極めねばならんな」
「そうなるな」
俺は後ろを振り返ると、二人が楽しそうに話をしているのが見える。するとラーダが言った。
「まぁ、よろしく頼むわ」
「それなら、まずはジャックがハルを落とせるかどうかだがな」
「そこはジャックに頑張れとしか言えん」
なるほどね。これは、ちょっと面白くなってきたな。
さてさて。どうなることやら。
※
※
※
宿に帰ってきた。何だか体がだるい。
「ふぅ……」
ステータスを開く気力もない。
「何だか疲れましたね」
ハルがそう言って寝袋に潜り込む。どうやらハルもかなり疲れたようだ。
「そうだな。なんか凄くだるいんだが」
俺は水を飲む。
「私もです」
今日はもう休もう。それぞれのベッドに敷いた寝袋で眠りについたのだった。
翌朝。目眩がする。口がからからなので水を飲もうとペットボトルを持ち上げようとした。しかし重くて持ち上がらない。
なんだ?
どうなって……
ハルを呼ぼうと声を出した。
「ハ、ル……」
ハルの寝袋からはゼェゼェという荒い呼吸が聞こえる。なにかおかしい。な、にが……
そこで俺の意識は途絶えたのだった。
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