百合子さんのお茶

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 百合子さんが施設に入ってから、百合子さんの家の敷地の角にあるごみ捨て場が荒れやすくなった。  先週近くで火が出たばかりで、放火の疑いもまだ残っている。晶子も同じごみ捨て場を使っているので、通るたびになんとなく確認するようになった。  荒れていたら家に戻り、玄関に置いてある掃除セットと軍手を取って、片付けることにしている。  手書きの「ごみ捨て場をきれいに使いましょう」の貼り紙の効果は薄そうだった。やはりこの敷地を提供している人間が貼らないと効力が薄いものなのかしら、滲んだ字を眺めながら思う。  片付ける晶子の後ろ、百合子さんと晶子の家のある横道から斜めに道路に飛び出していく自転車がある。学生らしい男性が乗っていて、この春から見かけるようになった。横道から表の通りに接する位置にある百合子さんの家に隣接し、晶子の家の向かいの敷地にあたる場所に、百合子さんが大家になっているアパートがある。そこの住民かもしれない。  ああいう手合がごみ捨て場のルールを破っているのではないか、と疑っていて、なんで百合子さんのアパートの住民の尻拭いを自分がしているのか納得のいかない気持ちがある。 「でも変なおじさんが路端に座りこんだりしててね、目が合っちゃったことがあるの。あれ放火魔じゃないかと思うと、ここは人が管理してますよってポーズも必要だしね、警察には届けないけどねただ思っただけだからね、それにしても人が居ない家っていうのはあまり防犯上良くないわよ。まあ百合子さんも認知症だっていうし、ヨリちゃんが近くに居るっていっても仕事してるし、他の子は遠いしね、施設に入るお金があるお家で良かったわよ。百合子さんもああ見えて元はなんもしたくない人だしね、茶飲み話に付き合ってくれる人も居るだろうからいいのかもしれないけどね。なにもう切っちゃうの、またね、うどんばっかりじゃだめだよ、高くったって野菜も摂って、はいはい、はいまたね」  他県に勤める息子が、昼休みにこまめに連絡してきてくれるので、晶子はなんでも思いついたことを話す。孤独な老人のひとり暮らしではないのだという自負がある。年下のいとこも同じ横道のつきあたり、晶子の隣に住んでいて交流もあるし、息子が旅行に連れて行ってくれるときなどは、庭の花に水をやったりしてもくれている。
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