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ぼくが覚えていることは、みんな忘れているのに、ぼくが忘れてしまったことは、全部きっちり覚えているんだね。
待ち合わせの時間になっても来ない。ほんのちょっとのすれ違い。きみが思っていることはだいたい予想がつくよ。はいはいぼくが全部悪いんだね。そう、ぼくが待ち合わせ時間を変えたから。きみは変える前の待ち合わせ時間を覚えているんだろう。そしてぼくは、残念なことに変える前の待ち合わせ時間が何時だったかを覚えていない。
結局、その日はいつまで経ってもきみの姿が現れることはなかった。そして翌日の夜、ぼくが忘れかけた頃にきみからの電話が鳴った。
「もう、これで何回目? また約束の時間も忘れて! ずっと待っていたんだよ。だけどあなたは、いつまで経っても来なかった。」
「ごめん、でも。」
「そのセリフも聞き飽きた。どうせわたしの方が約束の時間を勘違いしていたんだってね。」
「いや、今日は約束の日も。」
「はあ? なにそれ? 今日記念日かなんかだったっけ? だったらなおさら、あなたが忘れたのが悪いんじゃない!」
「こ、ごめん。」
こうなった彼女は止められない。すれ違いの多いここ最近は、ぼくが一方的に謝ってばかりだ。それなのに彼女は言う。
「もう、わたしばかり謝り続けて、バカみたい。」
まるで話が合わない。こうなる前、それもたった一週間前のことだけど、それまで彼女とは一度もケンカしたことがなかった。それくらい仲が良かったはずなのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう。きみとぼくの言い分が、こんなにも食い違うようになったのだろうか。
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