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食堂まで降りていくと、厨房のすぐ傍には着替え終わった久遠が立っていた。あまり見ない竜胆色の着物に濃紺の羽織り。着物には裾に竜胆の花が金糸で刺繍され華やかだが、羽織りは無地である。秋の季節に合う色合いで固められているから、季節柄を意識したのかもしれない。
僕は階段を全て降りてから久遠の傍に駆け寄った。
「そんなところでどうした?何かあったか?」
「今日の献立聞こうと思ったら、幸人に鍵掛けられて追い出されたの」
「出来てからのお楽しみ、ということだろう」
ムスッと頬を膨らませるとやけに子どもっぽく見えた。今朝もこんなことがあったなと思い出していると、ふと久遠は僕に目を向けた。
「それより••••••今日はそれを着たんだね。可愛いよ、似合ってる」
「これが一番気に入っていて。お前が贈ってくれたものだから特に••••••。それに報告はしておかないと、って」
「報告って?」
「だから、その••••••。久遠の一方的な求婚だったけど、今は違うんだって。ちゃんと真剣に、交際しているからって」
じいやは多分、久遠が父達と話している場所にはいなかった。栗栖邸から出た時もいてくれたけれど、どうして婚約するに至ったのか、あまり知らされてはいないように思うのだ。
始まり方が強引だったのは僕も認める。現に最初はそう思っていた。でも今は••••••久遠のことを、一人の男として愛している。認めてくれとか、反対するなとかではなく、ただじいやにはそれを知っておいて欲しいと思ったのだ。
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