問い詰めない理由

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問い詰めない理由

「ただいま!あれ?もう帰ってたの?」 僕より30分ほど遅れて、真澄が帰ってきた。僕はさっきの出来事をなかったことにしたくて、相当な量のビールを飲んでいた。 「あ?うん、思ったより早かったよ」 「そうか。で、一人でそんなに飲んでるの?」 真澄は、僕の前に転がっているビールの空き缶を見て笑った。 ___誰のせいだと思ってるんだよ 何も気づいていないのか、真澄にはまったく悪びれる様子はなくて、さっきのことは夢だったんじゃないかと思えてきた。 「飲み過ぎると明日がツライよ。私、お風呂入るね」 せかせかとパジャマを持って浴室に行く真澄を見ていた。 ___男の余韻を消すということか スマホを取り出し、ホテルのドアの前で撮った真澄と男の写真を見た。誰がどう見ても、浮気の現場写真だ。僕はこの部屋に入る前から二人を見ていたんだし。 写真を見ながら、どうしようかと考える。この写真を突きつけて、問い詰めるのが一番普通の対応な気がするのだけど。 その場合を予想してみる。 僕…“今日、誰と食事だったの?” 真澄…“友達よ、言わなかったっけ?” 僕…“男の?” 真澄…“違うわよ、恵子よ、ほら、会ったことあるでしょ?” 僕…“恵子さんとは違うと思うけど、コレ” (ここでスマホの写真を見せる) 真澄…“えっ、どうして?” 僕…“グループで食事したあと、腕を組んで八階の部屋へ行った、その後出てきた時の写真だよ。これ、恵子さんなの?” 真澄…“まさか、つけてたの?” 僕…“たまたまだよ。それよりも答えて。コレは誰?” 真澄…“………” 僕…“この男も既婚者みたいだね?どこの誰?どんな関係なの?” 真澄…“あー、もう!そうよ、付き合ってるのよ、私たち。でもそれだけよ、お互いの家庭を壊すつもりなんてないから” 僕…“付き合ってるって!ダブル不倫だよね、コイツにも奥さんがいるってことは、バレたらその奥さんも悲しむよね?” 真澄…“だからなに?バレなきゃいいってことでしょ?もうっ!めんどくさいな。バレたんなら仕方ない。いいわよ、離婚しましょうよ。慰謝料はごめん、払えるほど持ってないや” 僕…“そうじゃなくて!” (まずは、ごめんなさいじゃないのか?) 真澄…“じゃあ、なんなの? 僕…“僕に対して何か言うことないの?” 真澄…“ごめんなさいって?こうなったのにはあなたにも原因があるんだからね” 僕…“僕のどこが悪いの?言ってよ” 真澄…“もういいわ、別れましょう” (そしてそのまま、この部屋を出て行く) 僕…“いやだ!行かないでくれ!” ・ ・ ・ そこまで想像した時、真澄がお風呂から出てきた。
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