萬緑五月─新歓開幕─

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「おっす多田、元気してるか〜」 「あ、木下先生…元気してます、なんとか」 さすがは1Sの癒しと呼ばれるだけあり、ふにゃっとした笑顔は周りにマイナスイオンを放出するような雰囲気をもっていた。エナドリみたいなもんか、と木下は考えながら話を続ける。 「ならいい。多田は確かうちのクラスの新歓委員だったよな。部屋分けの件で聞きたいことがあんだけど」 「あ、そうです………本部くんですか?」 「話の理解が早いな…そうそう、本部ってどの班?」 本部が生徒会とずっと絡んでいるのなら、多少なりとも変更が加わるかもしれない。本部の件で同室の生徒達が被害を被るなんてあんまりだ。 「あーー、本部君…は、東くんの班です」 「あーー、東か……」 それはまあ大変な組み合わせだな、と木下は率直に考える。 東 由宇─あずまゆう─は、1Sの風紀委員である。篠目や多田とは違った感じのおっとり、というかのんびりで確実にB型な生徒である。そして無口でラグがあり…… とにかく。形容するのは難しいが、まあ本部とは分かり合えなさそうな生徒なのだ。 しかし風紀と同じ部屋なのは助かる話。どうしたものかと考えていた結果、とりあえず東に話を聞いてみることにした。 善(なのかは分からないが)は急げ。 多田へ礼を言ってから、野菜を切っていた東の方へ近寄れば、東が気づいたようで木下の方へ顔を向けた。 「東、お前って部屋本部と一緒であってるよな?」 尋ねれば、東は10数秒こちらを見てラグを処理して漸く、ゆったりと頷いた。 「…でした。…何か、問題が?」 言いながら、こてんと首を傾げる東。 「いや、本部って結構うる…元気、だろ?有り余ってるとも言うけどな、とにかく、耐えれそうか?」 「……です。風紀なので…」 おっとり、のんびりとしていても風紀に所属しているという紛れもない事実がある。 適当なようで誰よりも生徒達を思ってくれる担任に、余計な迷惑はかけられない。 任せろ、と口角を上げてこくこくと頷いた。 その様子に、木下も任せられると判断してクラスに戻るよう促した。 ──────── クラスのカレー作りは大変も大変。 なぜなら上のクラスになればなるほど、料理など普段しないお坊ちゃま達が増えるので。 これでも1年生の中の最上級クラス、1Sでは怒号さえ飛び交っていた。 「おい黒河ァ!やる気出せや!!」 「つかれた」 「絞め回すぞ!!!!」 「岡ー!叫ぶ前に手動かせー!」 「田口うるせぇ!!疲れとんじゃ!」 「理不尽が二足歩行しとる……」 しかしクラスの全員は、誰も怒っておらず初めての経験を楽しんでいることが分かりきっているため、止めなどしない。 そうこうしているうちに、カレーのいい匂いがテントに広がった。 尚、盛り付け班。 「お腹すいたね〜、カレー早く食べたいな〜。柴田もそう思うよね?」 「……」 「え、無視?柴田?僕泣くけど?」 「あのなぁ」 じとりと篠目を見ていた鋭い目が、キッと釣り上がる。柴田は盛り付けたカレーを1つテーブルに置いて叫んだ。 「てめぇまだ1皿しか盛り付けてねぇだろ!!手ェ動かせや!!!」 2人とも仲良いねと笑いながら、多田は白米を皿へよそった。 ───────────── 1500スターありがとうございます! スター特典も続々作成していこうと思います。 ─────────────
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