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001:お嬢様は錬金術士
コポコポコポと液体の煮立つ音に混じり、私のドレスが擦れる音だけが聞こえる。そんな室内は簡素ながらも豪華な調度品が並んでいる。
今日は一段と冷えるなと思って、意識を窓の外へ向けると、そこではシンシンと雪が降っていた。
視線を目の前の机に戻す。そこには赤、青、緑、黄といった様々な液体が入ったガラス瓶が並んでいる。
そんな数ある瓶の中から、私は赤い液体が入った物を手に取り、そこに緑色をした液体を流し込んだ。
すると液体は、みるみると黒く変色して焦げたような匂いを放ち始めた。
「げ!」
やっちゃった!
私は慌てながらも、それでも意識と動作は冷静に液体の入った瓶を机の上に置いて、中庭へ続く窓に駆け寄り、そこから外へと飛び出す。
「とぉ!」
その際にスカートがひるがえり、飛び降りた先では裾を踏んで着地に失敗。そのせいでコケてしまう。その瞬間。ドカンと言う爆発音が辺りに響いた。
「うひ!」
思わず小さく悲鳴を上げてしまう。そして恐る恐る室内を覗き込むと、そこは散々たるありさまになっていた。
「あちゃ~」
やっちゃったよぉ。
そんな落ち込む私の下に、いつものごとく家女中たちがスススーと室内に入って来た。
そしてチラリと私を見て、深々とお辞儀。さっさと掃除を始めてしまった。そんな優秀で教育の行き届いた家女中たちの姿を窓ごしに見つめていると、ドタドタドタと慌ただしい足音が聞こえてきた。
この公爵家の屋敷では本来なら、あってはならない音だ。
それだけに、足音の主が相当に慌てふためいていることだけは分かる。
私は、そっと窓の縁へ顔の下半分を隠して、目だけを出しながら様子を窺った。
そんな室内に入ってきたのは案の定といえばいいのか。家政婦のミセス・ウルネリーだった。家政婦とは、小間使いと乳母を除く全ての女性使用人の最高位で、彼女たちは既婚、未婚問わずミセスと呼ばれ、大変に恐れられた。
この屋敷にいるミセス・ウルネリーも当然のように恐れられている。それは女中だけに留まらない。
「またですか!」
そう言って室内に居る家女中たちに視線を向けるウルネリー。
すると家女中たちが揃って窓の外に居る、この部屋の主である私へと視線を向けた。
当然その視線を追ってミセス・ウルネリーも窓の外を見る。
そしてそこに目的の人物を見つけたと言わんばかりに、目を三角にして怒鳴り始めた。
「エレスティーナお嬢様! 何度言ったら分かるんですか! 屋敷のお部屋で錬金術をするんじゃありません!」
そんな彼女に、私は窓越しで抗議した。
「だったら調合室を使わせてよ!」
「駄目です! お嬢様は十五歳になる、この冬には社交界にデビューするんですよ? そこで色んな殿方と、ご対面をなさるんです! それなのに、そのお嬢様が薬品臭かったりしたらどうするんですか!」
しかしそんなウルネリーの言葉は、私の心にはちっとも響かない。なのでそっぽを向いて答えた。
「別にいいよ。そんなのどうでも!」
「よくありません! それになんですか? その言葉遣いは!」
「ふんっだ。いいのよ。私は結婚なんてしないんだから!」
そう叫んで「よいしょ!」と言う掛け声と共に、窓の縁に足をかけて室内へと戻った。
そのお嬢様としては問題がある行為を見たウルネリーは、悲鳴を上げて卒倒したのだった。
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