首脳会談

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 輸送機が接近して来るにつれ、川内らの周囲が騒つき始める。マッカラン国際空港からと思しき警報音が遠くから流れて来ると共に、米兵たちの通信機や車両から緊急呼び出し音が一斉に鳴った。トムら米軍士官たちは大声で空港に仮設されたCIC(戦闘指揮所)へ問い合わせ、状況を確認しながら部下へ命令を下している。  米軍の防空システムを潜り抜けて来た三機の民協軍輸送機は、マッカラン空港の上空へ到達しており、すでに格納庫のハッチを開き始めていた。  トムは騎兵戦闘車の通信機で空港に残っていた部下との通信を終え、車長と少し言葉を交わし、アンダーソンの方へ向きを変えて大声で叫んだ。 「ジェリー! あと三十分後には仏大統領機が空港へ到着しちまう。それまでに事態を収拾させなきゃならねえ。川内総理と内田秘書官を頼んだぜ」  アンダーソンが人差し指と中指を絡めた手のひらをトムへ向け、それに応える。 「任せとけ! ふたりは我々が無事にお送りするから心配するな。トム、幸運を祈る(God Speed)!」    トムはサムアップで返すと、すぐに騎兵戦闘車へと乗り込み、車長へ発進を命じた。四台が揃って空港へ向かって行く様子を川内は心配そうな表情で見送っていた。内田は至って冷静な表情のまま懐の端末を取り出し、マッカラン空港に残っている自衛官から状況を聞き出していた。 「君は怖くないのかね。私は……なんだか悪い夢でも見ている気がしてならんのだが……」 「今、空港に残っている職員や自衛官の状況を伺っております。怖がるのはあと回しにしてください」 「そういうことでは……いや、そうだな、確かに君のいう通りだ」  民協軍航空機二機はMT専用輸送機で、直立形態モードのMTが三機ずつ、計六機がハッチから宙へ飛び出るようにして降下を始めた。パラシュートやバリュートのような落下減速装備が展開されていない。これは立川基地と横田基地への強襲、そしてカリフォルニア州サンノゼ市への襲撃と同じく、重力制御装置の応用により可能となったエアボーンであった。残りの輸送機からはストックポットなどの戦闘車両がやはりパラシュート類を開かずに地表へ向けて多数投下されて行く。  各輸送機はMTや車両をすべて投下し終えると、格納庫ハッチを閉じ、空港上空を大きく迂回するように飛び去って行った。  降下中の民協MTから地上へ向けて攻撃が開始される。地上にいくつもの爆炎の閃光や赤黒い黒煙が上がっているのが窺えた。米軍もすぐさま対空砲火を始め、地上から多数の火線やミサイルが空へと放たれて行く。民協の戦闘車両は宙空機動ができないため、砲火を浴びた車両は爆散し、その残骸がばらばらと地上へ降り注いだ。降下中の民協MT六機は宙空機動で地上からの砲火の間を縫うようにして回避している。  内田は通話を切ると、空港に残っていた職員や自衛官たちの状況を川内へ報告する。 「総理、職員たちは専用機を降り、マッカラン空港の地下シェルターへ退避が間に合ったそうです。自衛官たちは米軍と連携して空港職員の避難誘導や待避の補助を行っています。どこの国かは未確認ですが、政府機の数機が破壊されました」 「そう、か……わかった。内田くん、ありがとう。ひとまず職員の無事が確認できてよかった。同行して来た自衛官には、またも迷惑をかけてしまったな」  対空砲火に晒された民協の戦闘車両は次々と撃ち落とされて行ったが、ばら撒かれた残骸の一部は空港の施設へ向けて落下し、あちこちから火の手が立ち昇る。砲火をかい潜っていた六機の民協MTは降下速度を徐々に下げて着地態勢へ移行し始めていた。速度が緩んだことで対空攻撃の命中精度が上がり、降下中の一機の脚部に擲弾が炸裂し、その勢いで横薙ぎに吹っ飛んで行く。失われた脚部を司る重力制御装置が誤作動を起こし、その民協MTはマッカラン空港C面滑走路中央部へ向けほぼ一直線に急速落下して行った。  落下地点で眩い光束が弾けた直後、轟音と共に直径三百メートルにも及ぶ巨大な球体の輝きが滑走路周辺を包み込んだ。空気を裂くような鋭い閃光と地面を揺るがす振動に、川内はもちろん、鉄面皮の内田でさえも恐怖に(おのの)く。ふたりは実際にプラズマコンバータの誘爆を目の当たりにするのは初めてだった。  アンダーソンや他の兵士たちも爆発規模を目前にして表情が凍りつく。米軍や自衛隊機に搭載されたプラズマコンバータをはるかに上回る出力なのは間違いなく、米兵でさえも戦慄してしまうほどの脅威的な破壊力であった。
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