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祝福の鐘が昼の曇天に鳴り響く。
「新郎ヘクター、あなたはここにいるイヴェットを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を神に誓いますか?」
「はい、誓います」
「新婦イヴェット、あなたはここにいるヘクターを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむ事を神に誓いますか?」
「はい、誓います」
そうして誓約書にそれぞれサインをする。
「ここに神への誓いが交わされました。両家の祝福を、皆様もお祈り下さい」
神師がそういうと参列者が同時に「神意のままに」と返す。
それが結婚式のお決まりの定句だった。
イヴェット・オーダムは今日、ヘクター・オーダムと結婚する。
ヘクターと父の要望で盛大に開かれた式はそれは豪勢なものだった。
一般的な貴族の結婚式のように、イヴェットとヘクターの間に愛はない。
それでもイヴェットは一般的な貴族のように、お互いの家を協力して盛り立てていこうと思っている。
「死ぬ前にお前の晴れ姿が見られて嬉しいよ。本当に、綺麗だ。エリザベトにも見せたかった」
「お母さまは天国で見て下さってるわ。お父様も、ありがとう。私幸せよ」
母親のエリザベトに似た蜂蜜のようにも見える金髪と美貌、父親の緑の瞳を受け継いだイヴェットの眩しいくらいの花嫁姿を見て、父親は車いすの上で涙ぐんだ。
「イヴェット、私はエリザベトとお前と出会えて幸せだったよ」
「私もよ、お父様」
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