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特別好きなジャンルとかはないけど、最近は恋愛モノにハマっている。同じ職場の上司がイケメンで、自分にだけ冷たくて~、とか、顔面偏差値低めの女子が学校イチのイケメンに溺愛される~、とか、そういのがドツボだ。
なぜなら。
生まれてこのかた30年、私にはもっとも縁のない日常だから。
指先で画面のページを捲りながら、マンガはいいよなあ、と、ちょっと拗ねる。だって、「顔面偏差値低め設定」のはずなのに、可愛い(マンガだから)。スタイルもいい(マンガだからね)。イケメンとの「偶然の出会い」だって、そこらじゅうに落ちている(マンガだからだよ)。
どうなの、ねえ、恋人や旦那サマのいるそこのアナタ。どうやって相手を見つけたの、偶然の出会いってどこに転がってるのさ。
……と、地球上に住む、言葉を話すすべての哺乳類に片っ端から聞いて回りたいくらいだけど、悲しいかな私はぼっちだ。超絶ぼっちだ。もう一度言おうか? 超絶ミラクルハイパーウルトラぼっちだ。
「ふっ……」
あまりのぼっちぶりに、なんだか笑えてきた。ていうか、顔面偏差値ガチ低め、これといった特技なし、コミュ力なし、センスなし、貯金なし。あるものと言えば。
あるもの……? なんかあったっけ?
ああ、ひとつだけあった。人並み外れた妄想力。これだけは誰にも負けない。どんな些細な出来事だって、どんどんどんどん、果てしなく妄想を膨らませることができる。それを言語化できないことが、この上なく悔しいところだ。
こっそり自己嫌悪に陥っているところへ、ドアが勢いよく開いた。反射的にそちらへ目を遣ると、キラキラオーラを振り撒きながら、伽羅が姿を現した。
「あれえ、ちゅう子ちゃん、遅番?」
「あっ、ううん、今日は通し……」
「そっか、お疲れ!」
私と同い年の伽羅は、私と同じくバイトで生計をたてている。明るくて可愛くて、伽羅目当てでこの店に来る男どもを、私は少なくとも5人知っている。
なんとなく、(昔読んだマンガのせいで)美人は意地悪っていうイメージだったけど、伽羅は違う。性格からしてもう美人。陰キャを絵に描いたような私なんかでも、分け隔てなく接してくれる。
そう、美人が意地悪っていうのは、単なる僻みなんだって、気付かせてくれたのは伽羅だ。
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