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ノアの殺気が少し漏れ出て、エマが慌てて付け加える。
「いやいやいや、実際どーこーってんじゃなくて! そう思っちまうのは仕方ないだろ? お前がどう思ってんのか知らねえが、とにかく周りから見たお前は超絶イケメンな紳士様だ。手に職があって、頭が良くて〜、優しくて? そんな人間が自分のために足を止めるって言ったら申し訳なく思うのがリリーなんだよ。お前の時間を、幸せを、奪っちまってんじゃねえかって、もしかしたらそういう風に考えちまってんじゃねーのかな…… とか」
エマがゴニョゴニョと語尾を濁した。ノアがハンガーラックに掛けたストールに目を移した。
「なあ、エマ。僕のする事を施しだなんて受け取らないで欲しい。僕が渡す擬似夢は、計画に参加してくれる事への対価だし、僕は君を大事な友だと、本当に––––」
「だーもー分かってるって!! 心配すんなよ。あたしがお前のお節介を断るのは、金持ちのご婦人たちに嫌われないためだ。あーいうのに嫌われて儲け先が減るのはごめんだからね。施しだなんて思ってねーし、仮に施しだったとしてもあたしは有り難く受け取る女だ! 落ちるとこまで落ちてる人間が、これ以上見栄張ってどーすんだってな!」
エマはそう言うとニカっと笑ってみせた。そうやって自分を卑下して、傷を軽くしようとするのはエマの悪い癖だった。
けれど、自分を慰めようとして発された言葉を、きつく注意することは出来なかった。
ノアはエマの右の頬を優しくつねった。
「言ったよね、君は大事な友人だって」
「へー」
「じゃあ、僕の大事な友人を貶すのは程々にしてくれ」
「へーへー」
ノアは左の頬も優しくつねった。
「明日、声を荒げた事を謝りに行くよ。もっと冷静にリリーの話も聞いてみる」
「ひってらっひゃいまへ〜」
ノアは両手を離してニッコリ笑った。
「今日はありがとう、もう遅いから送るよ。ストール、ちゃんと巻いておくれよ」
「甘やかしすぎたな」
「何か言ったかい?」
「な~んにも!」
エマは少しの後悔を滲ませて、つねられた頬をさする。
漆黒の空には星のカーテンが降ろされていた。
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