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——こうしてまた二人でキッチンに並び、葵先生による実演付きの料理のレクチャーが始まった。そうこうして、ようやくまともな雑炊が出来上がるのだ。
そして——。
「はい、あーーんっ」
ダイニングテーブルに座り、出来立ての雑炊が入った一口分のレンゲを手に持った葵に促されてそれを嬉々として口で受け止めていたのは綾乃だった……。
「……うそっ?! やっぱおいしーーいっ!! 雑炊がこんなに美味しいものだったなんて、私……知らなかったー!!」
「ほんとに? よかった!」
ここまでの一連の流れこそ身に覚えがあるにもかかわらず、今度も綾乃は両手で頭を抱えながら膝から崩れ落ちる。
「だっ……だーかーらっ、なんで!! なんで私が葵に雑炊作ってもらって尚且つフーフーしてもらったうえに『あーん』ってしてもらってるわけぇ?! 看病してるのは私なのにっ、こんなの理不尽よぉぉ!!」
「(せっかく今日こそは花を持たせてやろうかと思ったのに……やっぱこうなるオチか)」
自らの不甲斐なさ(メシマズ度)を嘆き続ける綾乃をテーブルに頬杖をついたまま見つめていた葵が、フッと笑って言った。
「……ずっとここにいてくれない?」
「……え」
——突然のことすぎて、理解が追いつかない。
そんな呆然とした綾乃をまっすぐに見つめて、葵は続ける。
「料理は壊滅的に下手だし、寝相も最悪だし、すぐムキになって怒るし、思い込みも激しくて勝手に暴走する悪い癖も……なぜか全部愛おしくて飽きないんだ。だから……お前がここで帰りを待っててくれるってだけで俺、仕事にも張り合いができると思う」
——その表情は、もうすっかり疲れが吹っ飛んだようにスッキリしていた。
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