【赤】1話 

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いつものように研究室に篭っているとドタドタとうるさい足音が近づいてきた。その足音を聞くとため息を吐いてしまう。同じ部屋にいた職員たちは「お、来ますよ」と笑い合ってる。 「京ちゃーん」 「なんですか東雲教授」 「冷たいなー。私の愛娘は」 鳥の巣のようなくるくるな髪と分厚い眼鏡。絵に描いたような研究者の見た目のこの人は私の父。日本では結構有名な研究者だったりする。 「おはよう」と職員たちと挨拶している父を他所に仕事に専念する。 「京ちゃん。話があるんだ。今、時間ある?」 なんか、いつになくニコニコの笑顔。嫌な予感しかしない。 「はい。大丈夫です」 職員たちに「いってらっしゃい」と送り出されながら部屋を出た。応接室に着き慣れ親しんだソファーに腰掛け足を組む。 「それで話って何?あと職場で京ちゃんは恥ずかしいって言ってるでしょ」 「えー。京ちゃんは京ちゃんだからなぁ」   甘々な笑顔を浮かべながらコーヒーを淹れてくれる父には何も言えなかった。父は非常に頭がキレるし口喧嘩じゃ敵わないのは昔から分かってる。  何言ってもお父さんには勝てないからもう諦めよう。  出されたコーヒーの香りとこの苦味のおかげで少しだが苛つきが収まった気がした。 「‥で話って?」 「京ちゃん、一年くらい高校の臨時講師してきて」
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