未来泥棒。

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 病院の一室、何気無く付けたテレビでは、あの通り魔事件が連日ニュースになっていた。  被害者名は未成年と言うこともあり伏せられ、近くの高校の男子生徒一名と表記されている。  俺が動いたにも関わらず、ここは変わらず『未来視通り』だ。被害者は『男子生徒一名』。  種明かしをするならば、あの日美唯は、本来遅刻する予定だった。  あの朝俺が迎えに行かなければ、美唯は目覚ましの不調で寝坊して、それでも空腹で朝食を諦められずにメロンパンを食べて遅刻。  本当なら、あの通り魔の居る時間帯に、彼女があの場所を通ることはなかった。  俺が動くことで、未来は多少変化する。  通学路で起きた通り魔事件。未来視通りならば、その事件で刺されたのは、美唯ではなく同じクラスの男子生徒。そいつは美唯に想いを寄せている男だった。  いつも同じ通学路で挨拶を交わすクラスメイトが刺されたと知って、同情した美唯が入院した彼を見舞う内に、二人は距離を縮める。 「過去を変える事は出来ないし、俺に出来るのは、ほんの少し先の未来のネタバレを見る程度なんだから……ハッピーエンドを目指すさ」  刺される筈だったクラスメイトは傍に居たが、突き飛ばされた美唯に気を取られて通り魔には近付かなかった。  そして、男の刃は犯行に及ぶそのタイミングで一番近くに居た俺に向いた。  美唯を突き飛ばさなければぶつかりそうになった彼女が危なかったのだから、彼女が俺に助けられたという認識は間違っていない。  あの時美唯が俺の前に回り込もうとするとは思わなかったから、そこは誤算だった。僅かな歪みは他人を巻き込んだ弊害だろうか。  本当は、彼女を現場に連れてくる必要もなかったのだ。それでも美唯に未来を盗む話をし、実際刺される所を見せた。  これで、彼女は俺が自分を助けたのだと信じ込んだだろう。  あの場で行動をしたのは、俺だけ。  影響が他に及ぶことはなかった。 「……薫、起きてる? お見舞いに来たよ」 「嗚呼、美唯。いらっしゃい」 「体調はどう? まだ痛む?」 「大丈夫だよ……美唯を守れたから」  そう、俺は確かに泥棒をした。  彼女と居る未来を、誰にも知られずに盗んだのだ。
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