第1章 千鶴  1

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第1章 千鶴  1

 変な女に会った。  バイトが終わり、国分町(こくぶんちょう)を出て、人通りのない一番町(いちばんちょう)商店街のシャッターが下りた銀行の柱の影で、たばこを吸っていた時のことだ。  その日は店でトラブルがあり、それが落ち着いてから閉店後の片づけを始めたせいで、退勤の時間がいつもより遅くなってしまった。あと一時間もしたら、夜が白み始めるだろう。  そろそろ帰ろうかとたばこを消したところで、遠くから少し乱れたヒールの音が近づいてくるのに気付いた。  俺が働く国分町は仙台の、いや東北一の歓楽街だ。仙台の市街地を南北に貫く国分町通を中心に、たくさんの飲食店や風俗店が集まっている。昼間は買い物客が行き交う一番町が静まり返るのと入れ違いに、昼間はひっそりしていた国分町が、不夜城のように輝き出す。   しばらくするとその国分町側から、一番町商店街の通りに、靴音の主らしい若い女がひょっこりと姿を現した。  高いヒールの靴を履くのに慣れていないようで、歩き方が不格好だ。安っぽいミニのワンピースに、これも安っぽいコートを羽織って、露出した足はきれいだったがちょっとけばけばしいラメのストッキングを履いていた。
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