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終焉のときは呆気なく訪れた。一号の親族が、連絡が急に途絶えたのを不審に思い警察に捜索願を届け出た。捜査一課が親族の承諾を得て一号宅を捜索。台所の床下から霧島のどかちゃんの遺体を発見した。同時に捜査一課はのどかちゃんのランドセルや一号宅のあちこちから走入の指紋を多数検出していた。さらに悪いことに、捜査一課は一号の手記を発見したのだった。走入は捜査一課よりも早くに一号宅に足を踏み入れていながら一号の手記の存在を見逃していた。手記には公安警察官走入益世の手先となって、盗聴、盗撮、尾行、住居侵入等、数多くのストーカー紛いの違法行為に無理やり加担させられたことが記してあった。 手記は以下のように結ばれていた。 「二階に貯蔵してある数千冊の児童ポルノ関連の書籍はすべて公安警察官走入益世警部補が彼自身の異常な性癖を満たすべく収集していたものをわたくし渡辺光樹が無理やり保管させられていたものです。わたくし渡辺光樹は霧島のどかさんの誘拐及び殺害の証拠隠滅を公安警察官走入益世警部補に命令されて断りきれず、自宅台所の床下に霧島のどかさんの遺体を隠しました。霧島のどかさん及び御遺族の方々には心より御詫び申し上げます。関係各位にお願い申し上げます。どうかわたくし渡辺光樹を探さないでください。わたくし渡辺光樹はすでにこの世にはいません。わたくし渡辺光樹は告白します。霧島のどかさんを殺害したのは公安警察官走入益世警部補です。犯人は公安警察官走入益世警部補その人にほかならないのであります。」 エス〈一号〉渡辺光樹の手記が致命傷となった。手記に記された内容が事実かどうかは関係ない。人は信じたいもののみを受け入れ、それを真実として認める。世の中はエス〈一号〉の手記に記された内容を真実として認めた。これによって公安警察官走入益世警部補は女児誘拐殺害事件の犯人として全国指名手配されたのだった。 エス〈一号〉がなぜあんな大嘘をついたのかが走入にはまるでわからない。だがよくよく考えてみれば、きっとこういうことだ。エス〈一号〉にとっての走入は、走入にとっての堂園だったのだ。走入はかつて自分が堂園にされたことと同等あるいはそれ以上の仕打ちを、一号に対して行っていたのだ。それを一号が怨みに思ったとすれば、それは至極道理が通ることのように思えた。いずれにしてもそれは、走入にとって実に手痛い反撃であった。 走入はグロック自動拳銃とトカレフ自動拳銃を手にしたまま、ただひたすら逃亡を続けた。
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