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後日談
ーー数年後
別々の大学に通う私と希は、今でもこうして休日に会って遊ぶ仲だ。
放課後にカラオケやファストフード店で寄り道して帰っていたあの頃とは違うけど、私達の関係はあの頃と変わらないままだ。
信号待ちの間に隣に並んで立っていた希が私の肩を肘で小突いた。
「ほら見て、新しいドラマだって!」
何事かと視線を移すと、信号を渡った先にある最近設置されたばかりの超巨大ビジョンに小田桐さんの姿が映し出されていた。
後ろから来た女子高生がきゃあきゃあと騒ぎながらスマホで画面を撮影し始める。
なんだか彼がずっと遠くの存在の人になってしまったような、少しだけ寂しい気持ちになる。
表情で悟られてしまったのか、希がおずおずと私の腕に自分の腕を絡めてじゃれてきた。
「誰かを想う気持ちってさ、変わってはいくけど無くなりはしないんだね」
画面を見上げながらぽつりと溢した希の言葉に私は、かすかに首を傾げて見せる。
「優斗くんのこと思い返すと、あの頃の自分が戻ってくるみたいで少しくすぐったいけど……何となく満たされたような気持ちになる」
「……そっか」
私はふと口元を綻ばせた。
「やっぱ優斗くんはホンモノのスターだよ。何億光年先からでも光、届いちゃうんだもん」
「大袈裟だなぁ」と茶化しながら、ふと頭上の大型ビジョンに視線を戻す。
画面に映し出された小田桐さんは、被っていた真っ黒いバケットハットをヒロインに被せると格好つけながら言い放つ。
「ほら、だから言っただろ」
あの日、カフェで自分が小田桐さん相手にやらかした少女漫画展開の忠実な再現を、このタイミングで見せつけられるなんて思ってもみなかった。
隣に立つ希が両手を胸の前で握り合わせながら「いやぁ、実際に修司からこんな事されたらマジでヤバいよね」と声を弾ませる。
デジャヴどころではないその光景を目にして耳まで真っ赤に染めている私を見て、希は不思議そうな顔をしたのだった。
『これは……特大ファンサってやつかもね』という優斗くんの呑気な声が、風に乗って聞こえたような気がした。
END.
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