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 ーーその日、親友の推しが死んだ。  ネットニュースは彼の突然の訃報で埋め尽くされ、勝手な憶測が飛び交った。  ヤバいクスリに手を出したとか、そういうパーティーに陰で入り浸っていただとか、目も当てられないような話題がいくつも並んでた。  親友である希があの日、登校するなり瞳を輝かせながら私に告げたときを思い出す。 「ね、聞いて聞いて。推しができた」  嬉しそうに見せてくれたスマホの画面には、チョコミントアイスみたいな色の髪をしたイケメンが写っていた。  涼しげな目元と、すっと通った鼻筋が印象的で少女漫画から抜け出してきたみたいな顔立ちの子だと思った。 「はぁ……いかにも王子キャラって感じ…こういうのがタイプだっけ?」 「超かわいくて、超カッコいいの!しかもダンスがめちゃくちゃ上手いんだよぉ」  のめり込むとそればっかりになってしまう希は今回も例に漏れず、休み時間や放課後になると推しが写っている写真やら動画やらを見せてきた。  口先では「しつこいよ、どんだけ好きなの」と悪態をつきつつ、内心はこんなに夢中になれるものを持ってる彼女を素直に羨ましいと思っていたし、憧れのアイドルについて心底楽しそうに語る彼女を見ているのは嫌いじゃなかった(本人の前では絶対言いたくないけどね) 「マジでさ、推しが生きてることが最大のファンサだから」  冗談めかしてそう言って、あははと笑っていたあの日の彼女が今、目の前で泣きながら言う。 「ほんともう無理。優斗くんのこと、今は思い出したくない」  なんて声をかけたらいいのか、私にはわからなかった。  ただ黙ってハンカチを手渡そうと思ったけど、そういえば今日持ってるのって希とお揃いで買った優斗くんのメンバーカラーのやつだったと思い出し、ポケットに入れかけた手を引っ込めた。  「ライブの時に渡すんだ」と休み時間を削って一生懸命イニシャルを刺繍していたのを思い出す。  私は悲しみに暮れる親友の涙すら拭いてあげれないのだ。
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