僕はハーモニーを知らない

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 映し出された画面にはクラスの様子が映っている。奥にはホワイトボードと教卓。そして手前に整然と並べられた机には11人のクラスメートが座りホームルーム前の談笑に花を咲かせている。クラスメートと言っても、僕はまだ直接会ったことがない。ジュニアスクールの頃から一人に区分けされて、スクールへ行かなくなった僕はただ12の数合わせのためだけに今日も画面から参加している。  大柄の3人組の一人が言った。 「あれ、聞いた? スミスの鍛冶屋に泥棒が入ったらしい」 「聞いた。犯人はとても重い罪に問われるだろう。犯罪なんてこの街じゃ久しく起こってないっていうのに」 「調和を乱すような奴だろ。きっとこの街の住人じゃない。正しい音楽が何なのかも知らない街の外の連中じゃないのか」  おかしなことに。というよりも僕は妙に感じているのだが、3人は一斉に喋ることはない。しかも必ず順繰りに決まって一拍置いてあらかじめそう記譜されているみたいに話すのだ。3人ならまだいいけれど、これが6人になったり最大12人になったときには、もう一度自分が話すまでに相当な休符が必要となる。  順番が戻ってまた大柄が話し始める。 「でも、内部犯という話も聞いたぜ」 「噂だよ。そんなことする住人がいるわけがない」 「そうだ。それに目的がまるでわからない。スミスの鍛冶屋の楽器は世界的に有名なんだ。もし、犯人が一攫千金を狙って盗んだ楽器を売りさばいてみろ。すぐに足が付いてしまう」  そう目的なんだ。どうして犯人は楽器なんて盗んだのか。それも12の楽器全てを。まさか演奏なんかに使うわけではないだろうし、簡単に売れるわけではないし。 「もしかするとーー」  と、大柄が声を潜めた。3人だけで話しているつもりなのだろう。後ろに僕が一人いることを忘れて。 「テロ、なんじゃないか? 街の平和そのものを乱すことが目的なのさ」 「それこそ、何のために? 平和を壊す意味なんてどこにもないだろう」 「私達は平和だと思っているけど、そう思っていない人もいるのかもしれない。和音を作れない人とか」  3人組の話はそれきり終わってしまった。先生がやってきてホームルームが始まったからだ。でも、僕は最後に言った言葉をずっと考えていた。「和音を作れない人」ーーつまり、僕みたいなハーモニーから外れた一人きりの誰かが、スミスの楽器を盗んだんじゃないかってことを。
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