僕はハーモニーを知らない

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 「世界は音楽でできている」。あるとき哲学者がこう述べて、この街はつくられた。12枚の分厚い壁にぐるりと囲まれて「12」に支配された街。いつしか鍛冶屋の交響曲(スミスシンフォニー)と呼ばれるようになったこの街では今日もハーモニーが奏でられる。  調和と繁栄の象徴である12は絶対の数字で、乱してはいけない不文律。カフェのメニューは12種類で、アパートの部屋数も12部屋。服はきっちり12着。もちろん会社も学校も12とその倍数で構成されなければならない。できる限りあらゆるものが12に定められている。でも、ときどき12では不便なときもある。まさか部屋の中に12もトイレを置くわけにはいかない。キッチンもバスも一つあれば十分だ。そんなときは、小さなグループをつくることも許される。ただし必ず12を割り切れる数でなければならない。割り切れるのであれば「4+6+2=12」でもいいし、「2+2+4+4=12」でもいい。僕の通っているハイスクールのクラスでは「6+3+2+1=12」。  僕は一人だった。
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