青柿はうまいか?

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青柿はうまいか?

 ドスン!  地面を揺るがすような音と共に目の前に落ちてきたものを見て俺は目を丸めた。 「あ痛たたた……」  臼は地面に転がったまま、尻をさすっている。  俺の足の下にいた牛の糞が、「えぇ?」と困惑した眼差しを臼に向けた。  それでピンときた。  こいつら、この俺を押し潰そうとしやがったな。慌てて家から飛び出した俺の上に、屋根の上から臼が落ちてくる……手はずだったのだ。だが、臼は目測を誤った。  ふつふつと怒りがこみ上げてきた。こいつらは俺を狩ろうとして失敗した。それなら今度は俺が逆に狩ってやろうじゃないか。  尻を強打した臼はしばらく動けそうにない。だったら始末するのはこいつからだ。  足元のクソ野郎をむんずと掴み上げた。牛の糞の分際で俺様の足を滑らせるとはいい度胸だ。少しの間、礫のように手の中で転がしてから、糞を家の外壁に思い切り投げつけた。ぺしゃりと音を立ててそいつは壁に張り付いた。そこでそうしていろ。乾いて粉々に崩れ落ちるまで。  踵を返し家の中に戻った。水がめの側ではまだ蜂が飛んでいた。再び俺を攻撃しようと向かってくる。さっきは不意を突かれて刺されたが、今度もそううまくいくとは思うなよ。俺は足元に落ちていた水がめの蓋を足で拾うと素早く手に持ち替え、目前に迫った蜂を叩き落した。足をぴくぴく動かしているところ見るとまだ死んではいないようだ。脳震盪でも起こしているのだろう。頭をつまんで目の前まで持ち上げると、そいつの羽をむしりとってやった。飛べなくしてから、水がめの中に放り込む。しばらく足をばたばたさせていたが、やがて蜂は水の底に沈んでいった。  座敷のほうを振り返る。栗が血相を変えて囲炉裏に飛び込むところだった。もう一度弾け飛んで俺に火傷を負わそういう魂胆だろうが、手の内がわかっているのに引っかかるわけがない。俺は炉端まで行くと火箸を掴み、栗がもぐりこんだあたりの灰をめった刺しにした。何度か繰り返すうちに手ごたえを感じた。ゆっくり持ち上げると、火箸に串刺しにされた栗が姿を現した。恐怖に戦く栗を俺は一口で平らげてやった。ほくほくとした食感と甘みに思わず舌鼓を打った。  栗の皮を吐き出してから、囲炉裏の中の火がついた炭をかき集めた。手近にあった器に移し、それを持って家の外に出る。そこにはまだ臼が動けずにいた。屋根の上から落ちたせいで相当の痛手を負っているようだ。俺は足でそいつを押さえ込むと、その頭の窪みに炭を流し込んだ。臼が悲痛な悲鳴を上げて暴れるが、俺は足の力を緩めない。そのうち臼の頭の窪みがぶすぶすと燻り始めた。それでも抑え続けると、臼の頭が燃え出した。そこでようやく足を離してやる。臼は転げまわって何とかしようとするが、どうにもならなかった。
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