ウラヌスのダイヤモンドダスト

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 私は久しぶりに母星へ帰ろうと思った。それはもちろん人工星であるウラヌスジュニアへと帰るという意味と、勝手に出身地としている天王星へ、という意味で。ウラヌスジュニアと本当のウラヌスとは約100万kmほど離れているけれどね。果てしない宇宙の広さから比べれば、ウラヌスジュニアもウラヌスのうち、というのが我々ウラヌス星人と呼ばれる者の言い分なんだ。 「あー、あー、ウラヌス星人さん、ウラヌス星人さん、聴こえますか?」  いつもの彼から決まった時間に無線が届く。彼はこの情報システムの発達した現代において、ほぼロストテクノロジーとなりつつあるラジオ無線を扱っていた。彼から渡された無線機は、何百年も前の当時の骨董品を彼が模したものだった。まだ人類が地球に留まり続けていた時代。それこそカーボンニュートラル問題に頭を悩ませていた時代の遺物。彼はそんな時代のことをよく知っていて、私に話してくれていた。そんな彼は、私とは真逆で晴れ男だった。 「ウラヌス星人さんと会う時はいつも雨が観られて嬉しいよ。僕ひとりだと天王星でさえ穏やかな天気に変わってしまうからね。」 「ねえ、いいかげんウラヌス星人さんって呼び名やめてくれない? ウラヌス星人は私だけじゃなくてたくさんいるのよ。」 「じゃあ、狐の嫁入りさん。」  彼の言葉に私は思わずふさふさした耳を触ってしまう。 「うう、たしかに。だけどまだお嫁にも行ってないのに複雑。じゃなかった。私にはちゃんとクオ・ハーシェという名前があるんだから。」 「わかった、クオちゃん。」 「いきなり下の名前で馴れ馴れしいわね。ハーシェさんって呼びなさい。」 「いやクオちゃんって可愛いじゃん。」 「まったく、カイパーくんは。」 「僕も下の名前で呼んでよ、クオちゃん。」 「え、カイパーくんの下の名前、わからないな。」 「言ってなかったっけ? ダン・カイパーだよ。」 「うう、ダ、ダンくん。もういい?」 「ダメ、もうちょっと。また天王星の調査に行きたいんだけど。」 「うーん、私がいないとダメ?」 「例の“ダイヤモンドダスト”の調査だからさ、君が、クオちゃんがいてくれないと観られないかも。」 「別に私が雨女だからってさ、“ダイヤモンドダスト”が見られるわけじゃないでしょ?」 「まあ願掛けみたいなものさ。それに。」 「それに?」 「正直に言うと、クオちゃん、また君に会いたい。」
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