8話

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都合の良い神はいない。 『しぐれ』はそれを理解し今日、1つ賢く大人になった。 迫りくる様に段々と大きくなるチワワ達の甲高い歓声。 モーゼの如く人々が両脇に避け道を開けるために、彼等がこのテーブルに向かって進んで来ている事実が嫌でも視界に入る。 逃げ場は無い。 しかも隣には『緋鬼』と『クロ』がお行儀良く座り、彼等がこのテーブルに近付いて来ているのに回避する動きすらみせない。 只々呆然となすすべ無く近付いて来ている脅威を見続けることしかできない詩音。 ついに脅威が詩音の元へ辿り着く。 詩音にこの学園で初めて『緋鬼』の話をした男。 そう生徒会会長『桐ヶ谷 耀(きりがや あきら)』である。 圧倒的な王者のオーラを放ちながら詩音から黒瀬に視線を移しながら口を開いた。 「詩音?何でソイツといる?風紀の奴等といると穢れるぞ?」 ざわめいた食堂が桐ヶ谷が不機嫌な低い声を発した途端にシーンと波が一気に引くように凪いだ。 「あんなぁ?ば会長?詩音ちゃんは俺と仲良くしたいんやって〜!」 にやりと笑みを浮かべた黒瀬が弾んだ声で詩音の代わりに答える。そして見せつけるかの如くポンっと詩音の肩に手を乗せる。 「何言っているんですかっ?!私の詩音はお前なんかと仲良くなりませんよっ?!」 副会長である『月館 真雪(つきだて ましろ)』が涼し気な目元を吊り上げ、語気を強め黒瀬に反論する。そして、汚いものでもつまむように黒瀬の手を詩音の肩から引き剥がす。 そして黒瀬に触れた手をハンカチでフキフキしている。 普段は笑顔を絶やさない大和撫子なのだが、詩音の事になるとヒステリックに声を荒らげるのは何故だろうか。 黒瀬もそれを知っているので揶揄いがいがあるとばかりにニヤニヤした笑みで月館に視線を送る。 「そうだよ〜!あんな似非関西弁野郎なんかといたら、詩音ちゃんの可愛いお耳が腐っちゃうよ〜? あれっ?!詩音ちゃん泣いたっ?!お目々が真っ赤だよっ?!」 流れるように自然と詩音の頬に手を添え、至近距離に顔を近付けて覗き込むのは緩い話し方通りの下半身も緩めな生徒会会計の『鳴滝 蒼(なるたき そう)』。 親衛隊のチワワを毎日ローテーションを組んで性生活を送っていたが最近はローテーション制は廃止されたと噂がある。真偽は不明。 「近い。ダメ」 鳴滝の顔を詩音から引き剥がすように、鳴滝を後ろから羽交い締めしつつ詩音から距離を取らせる、書記の『柏木 涼夜(かしわぎ りょうや)』 柏木の身長が高く体格差があるため、鳴滝はされるがままにズルズルと詩音から引き離される。 「その隙に」「じゃあ、僕達が!」 「「詩音ちゃん。ぎゅーっしよ?」」 庶務の一卵性双生児のそっくりな2人『乃木 海瑠(のぎ かいる)』と『乃木 藍瑠(のぎ あいる)』が詩音を真ん中に挟み込みサンドイッチのように抱き締める。 そっくりな2人なために考えている事が同じなのか交互に喋る事が多い。 『しぐれ』はどっちが海瑠か藍瑠の見分ける事はできないし見分ける気も無い。只々、交互に話し掛けるのを鬱陶しいと思っているだけだ。その為基本的に愛想笑いしか返さない。 詩音が愛想笑いを浮かべて1言も話さないまま、事態が進んで行く。 「おいっ!俺の詩音に触るなよっ?!カイとアイだろお前ら?!」 この集団に見つかったらヤバイと思っていたのか、机のシミでも数えていた如く大人しく俯いていた遙だったが、詩音が抱き締められている状況に耐えられず声を上げる。 因みに黒瀬は月館、桐ヶ谷と睨み合いながらボソボソと何事かを言い合っている。 突然怒鳴られ、引き剥がされた双子の2人。可愛らしい童顔な顔を見事に歪ませながら舌打ちをし、引き剥がした犯人を睨み付ける。 「「あっ!『緋鬼』だー!!」」 「「「「はぁっ?!『緋鬼』?!」」」」 双子が叫びだすと、他の生徒会役員全員が遙に鋭い視線を集め驚嘆の声を上げた。 『しぐれ』はまだ1言も発していない。
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