いーぴょんが教えてくれた

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「はぁ?演者をやめたい?」 「はい」  その大きな瞳でわずかなためいらいも見せず真っすぐこちらを見つめる…………いや、にらみつける稲場に、諏訪は思わずカレンダーを確認した。が、今現在も明日に向けての準備に追われているのだ、日付を間違えようがない。 「発表は明日だぞ?」 「わかってます」 「メーカーや協力してくれる病院の先生方も集まるのに、延期なんて無理だ」 「だから、わかってます」 「だったら……」  自分がなにを言っているのか、稲場ならわかるはずだ。演者の稲場が演じるからデジタルマスコットの『いーぴょん』は動くのだ。稲場がいなければ、いーぴょんはただの人形になってしまう。そんな簡単に辞退できる話ではない。額に手をあて、ため息を吐いた諏訪。その視界に稲場のぐっとにぎられた拳が入る。きつく握りしめられた拳に、稲場が相当な覚悟で言っていることがわかった。  もう一度息を吐くと、諏訪は稲場を見すえる。 「わかった、代わりの演者を探すよ」 「それじゃあ────」 「ただし、明日だけは稲場にやってもらう」 「え!だ、だめです!」 「じゃあ逆に聞くが、なんでだめなんだ?」 「それは……研究発表を成功させたいから、です」 「成功させたいって…………テストは今まで何度も成功している。問題はないはずだ」 「でも、明日が上手くいくかはわかりません…………」  ちらりと稲場のデスクを見ながら言葉を濁す稲場。そんな稲場に、諏訪は、彼らしくない厳しい口調で告げた。 「稲場、悪いが無理だ。うちだけじゃなく、もう大勢の人間が関わってる研究なんだよ。詳しい理由もなく発表者を延期になんてできない。お前も学生だが、ずっとこの研究に携わってきたんだ、わかるだろ」 「…………はい」 「発表は予定どおり明日おこなう」 「…………わかりました」  いつもは強気な稲場らしくない今にも消え入りそうな声で言うと、彼女はそのまま研究室を出て行った。
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