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何はともあれ。
事故や事件が起こることなく無事に肝試しが終了したことは喜ばしいことだ。今は全員が会場に戻ってきていて、肝試しの感想なんかを言い合いながら楽しそうにそれぞれの時間を過ごしてる。
時間も時間なので、出されてた料理はここに戻ってきたときにはもう既に片付けられてた。サプライズのイベントも終わったことだし、周囲からはもうそろそろお開きかという空気が漂ってる。
「会長に終わりの挨拶してもらう?」
「ああ、そうだな」
隣にいる風紀委員長に聞くとそう返ってきたので、比較的近くにいた会長にその件を伝えたんだけど、「ちょ、ちょちょっ、ちょっと待て!!まだやらなきゃなんねえことがあんだよ!」と何やら焦った様子で言われた。
「やらなきゃならないこと〜?」
「ちょっと待ってろよお前ら!」
それだけを言うと、会長は足早に会場を去って行った。
(何か知ってる?)と風紀委員長に目だけで問いかけるも、静かに首を横に振られる。どうやらこの人も把握してない何かが起ころうとしてるらしい。
他の生徒会役員と王道転入生に視線を戻したところで、彼らの様子を見る限り、何か知ってるわけでもなさそうだった。
(一体何をするつもりなのだろう)
不思議に思ってると、すぐに大きな台車を押しながら会長が戻ってくる。
その台車の上には大きな長方形の物体が乗ってて、上から赤い布を被せられてそれが見えないようにされてた。
「会長様が何か運んでらっしゃる……?」
「なんだ?あれは……」
会場中の視線がそこに集中する。
周囲からざわついた声も聞こえてくるけど、会長は全く気にした様子もなくそのままゴロゴロと台車を押し、ボクたちの前で足を止めた。
「会長〜それなに〜?」
「この演出をしてくれっつって頼まれたんだ。つっても、俺もよく知らねえ」
会計の質問にそう答えた会長は、台車の上に乗ってる長方形の何かを覆ってた赤い布に手を伸ばす。
そして、それをバサッと剥いだ。
(……………、は、)
そこから現れたのは、真っ白な、棺桶。
「なにそれ〜? 棺桶〜?」
「かん、おけ………?」
「会長、なぜ棺桶を……?」
「なんで棺桶なんだ?」
会計と書記と副会長、そして王道転入生がそれにわらわらと近づいていく。
その様子を、ボクはただ黙って見つめることしかできない。
足が、動かなかった。
(………些か、似すぎ、じゃ)
「立派な棺桶だよな。俺は運ぶ前にも見たけどよ、パッと見た限りじゃかなり値が張る代物じゃねえか?」
「仰る通りでございますね……良い素材をお使いになっておられます……」
「会長も副会長も真剣に検分しすぎ〜ウケる〜」
いや、似すぎ、どころの話じゃない。
どう見ても、同じだ。
色、大きさ、形状、すべて寸分違わない、
あの日の棺桶と全く同じモノが、
そこにある。
(………どうして、これが、ここに)
手が、小さく震える。
(………どうして……だって、それは、オーダーメイドで……)
喉の奥から、吐き気が込み上がってくる。
(だから、もう、ボクの前に現れることは、ない、はず、なのに………)
それなのに、どうして。
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