おかえりなさい

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「はい、案内終了! これでもう自分の寮部屋はわかるな?」 「助かったよ。どうして君がボクの部屋を知ってるのか、なんて野暮なことは聞かないけど」 「そんなんいつもの不正ルートで部屋番号入手したに決まってんでしょ!」 「堂々と人前で不正を宣うその精神、最高にイかれてるね」 「お褒めいただき光栄だ!」 「いや、褒めてないし」 全く褒めてない。一ミリも褒めてない。 でもその最高にポジティブなところちょっと見習いたいなと思う。調子に乗るから絶対に言わないけど。 あの柵の前で出会ってから今まで、平凡くんに学園案内をしてもらっていた。それで今は職員室に向かってる途中。 「それにしてもお前の案内は超楽だったなー、大した案内してないし」 「学園の規則とか寮生活のルールとか、この学園って仕組みがほとんど一貫してて変わらないからね」 「そうそう! 教えたのなんて部屋の場所と、あとは今の役職持ちとか親衛隊の構成員とか、そういう学園生の顔ぶれの話だけだし!てか、あんまメンツ変わんないだろ? まあそれもしょうがないんだけどさ、ここ金持ち学園だし」 「そうだね、相変わらず素晴らしい保守性だよ」 「……すげえ皮肉ってるじゃん」 「いやいや、そんなことないよ?」 むしろ、感謝してるくらいだしね。 若干引き気味な顔をされたのでにっこりと笑っておく。 この平凡くんとは付き合いが長いせいで、ついつい本音が漏れやすくなる。でも彼も彼でボクに慣れてるから結構すぐに流してくれる。 ほら、今も職員室のドアが見えた瞬間に「あ!職員室着いた!」といつも通りに戻ったし。 「ちなみにお前のクラスは2年Sクラスだぞ!職員室の会話を盗み聞きして得た情報だから確かだ!」 「まーた堂々と不正を告白する。それも職員室の前なのに。先生にバレるよ?」 「気にしない気にしない! そんなことより、お前の担任はこれまたなんと珍しい外部の人間でな? しかも入社して半年のピチピチ新入社員で、まだ同性を性の対象として見れてない感じが初心(うぶ)くていいんだよな……きっとこれからその意識をドロドロに塗り変えられていくんだ……おっと涎が。あ、俺は2年Bクラスでお前とクラス違うからここまでだな、じゃあな!」 「はーい、さようなら」 気持ち悪さが健在な平凡くんにさっさと手を振り、職員室のドアに手をかけて開ける。 今現在、朝のホームルーム開始の10分前。 基本的に先生方はまだ職員室にいるだろうという見立てでここにやってきた。 「おはよーございます」 「おはようござ──……君は!」 「転入してきた堤下泉だけど、担任の先生いる?」 名乗ると一切に職員室の顔がこちらに向いた。 その中の1人が立ち上がり、ボクに近づく。 ふうん、あれが担任かな。 新入社員というだけあり、フレッシュそうな若い先生だ。黒髪短髪で、鍛えているのか筋肉隆々。ここまで言えばわかると思うけどもちろん男。 あ、ちなみにこの学園に女性はいない。 女性のいない学園なんて男子高校生にとって生き地獄なんじゃないかなって普通は思うじゃん? だってみんなちょっとエッチな英語の先生とか絶対好きじゃん。なのにせいぜいここにいるのは、ど淫乱ですぐに生徒を誘う英語教師(男)とか、ちょっとドジですぐに生徒に犯されちゃうムチムチオジサン用務員(もちろん男)とかだし。 普通ならこのラインナップに白目を剥いてもおかしくないのに、けれどここの学園生はそれがまた平気なのだ。理由は長くなるのでまた後述。
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