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愛情を疑うわけじゃない。あの鮮血の赤と、青白くなった肌の色は忘れられない。
ぬるい鉄の、むせ返るような強烈な匂いも、ぽかりと口を開けて呑み込もうとしてくる絶望の恐ろしさも──。
それに……そもそもわたしがもう、旦那様ナシでは生きられないと確信できる。
愛し、愛される幸せを知ってしまった。
だから、旦那様を解放してあげることはできなくて……お礼を一生かけて、伝えるつもりだ。
「いえ、アニーには白いドレスは着せません。王太子妃が白ですからね、王家に阿るように見られては困るでしょう?」
「……あぁ。それもそうですわね。でしたら、レースも意匠を変えるべきね」
「レース自体は流行しそうですから……さらに一工夫欲しいところです」
「そうよねぇ……キュアノス、どう思って?」
ローザリー様は香澄ちゃんじゃない。香澄ちゃんは寒色が似合った。ローザリー様は……断然、暖色。
それに、ローザリー様はわたしを頼りにしてくれる。認めてくれる。
「……目が粗いレースなので……重ねてはどうでしょう。レース同士でもイイですが……他の素材……例えばリボン、とか」
「あら、それはおもしろいわ。淑女の頂きに立つのですもの。わたくし達が流行を牽引しなくてはね」
「さすが私のアニー! 咄嗟にそんな素晴らしいデザインを思いつくなんて、天才かな?」
「いえ、あの、そんな……」
ラムールライト王子の結婚は1年程前、急に決まった。婚約期間1年での挙式は王族としては異例の早さだ。
噂では、大国の王位継承権十一位の身でありながら、おっとりとした優しい性格の姫に、王子の方が惚れ込んだ、とか……。
きっと鬼畜心を満たしてくれる、女神のような姫なのだろう。
とはいえ、わたし達は三人とも、彼がその直前までなんとか聖女と英雄の婚約に割り込めないかと画策していたことを知ってるから、正直微妙な気分になる。
お嫁さん、是非とも頑張っていただきたい。愚痴くらいなら聞けると思う、機会があれば。……あるのかな。
ちなみに、当初囁かれていたラムールライトとローザリー様の婚約は、まったく具体化しなかった。それというのも、ローザリー様が早々に、きっぱりくっきり否定したせい。
「互いにメリットがございません」
と。
強い、そしてカッコイイ。元々恋愛感情があるわけでもなく、選択肢の一つとして見ていた彼女は冷静だった。ドS王子の猫っ被りもバレていた。
「あ! では、銀色はいかが? 鈍色がかった、英雄様のお色ならキュアノスにとても良く似合うと思いますわ」
「ふむ……」
それで、ローザリー様が結局どんな道を選んだかと言うと、
「では、ローザリー嬢は金色ですか」
「ええ。良い案だと思いませんこと?」
金色の髪の持ち主。デウシス猊下の配偶者の道、だったりする。
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