叩かれても元気なアイツ

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叩かれても元気なアイツ

『アイツまじで邪魔なんだけど。二人に挟まらないで欲しい』 『話題もゲームもなんか古臭いし、アイツ二人と合ってないと思う』 『てかアイツいる意味ある?』  相変わらず、この子達は僕の名前を「アイツ」と勘違いしているのだろうか。活動名はユウ、本名は真田遊(さなだ ゆう)。そんな立派な名前が自分にはあるというのに。──まあ、本名はどこにも公開していないが。  動画投稿、あるいは生配信サイトであるMytube(マイチューブ)。僕はそこで活動しているOTOUHU(おとうふ)というグループの一員だ。といってもファンがついているのは主に他のメンバー二人で、僕の役目と言えばもっぱらこれ。「推しと推しの間に挟まる邪魔者」である。 『アイツはいなくていいからハヤトとツバキの絡みだけ見せてほしい』  名前の横に鍵マークを付けているが故にこんなにも強気なのだろう、まさか叩いている相手がファンを装って作ったアカウントでタイムラインに紛れ込んでいるとも知らずに。  適当にポチポチといいねを押しつつ、ベッドの上でごろんと寝転がる。めちゃくちゃに言われまくっているけれど、特に傷ついたりはしない。若い子にはそりゃあ若いハヤトやツバキ……桑野颯斗(くわの はやと)菅原椿(すがわら つばき)のほうが刺さるだろう。──って、僕も若いわ。元々趣味が古臭いのと、グループの中で最年長なだけで。颯斗くんとは四つ、椿くんとは七つしか変わらへんし。脳内でセルフツッコミを入れながら更にタイムラインを遡る。 『ヤトバキ配信欲しい』  ヤトバキ、とはハヤトとツバキのコンビ──というか、言ってしまうとBLカップリングを指す言葉だ。これはエゴサを始めてから知ったことだが。最初はそんな世界もあるのかと思ったが、知ってから二人の振る舞いを見るとなるほど納得できる。包容力があるかと思えば時折強引さも見せる颯斗くんと、颯斗くんを煽ったり、かと思えば甘えたりする小悪魔的な一面がある椿くん。そういう需要は大いにあるだろう。 『アイツまじいらね〜〜』  またアイツか。ちゃんとユウって呼べユウって。画面を眺めながら顔を顰めていると、ふと握っていたスマホにメールが届く。気になっていたゲームのメーカーからだった。 「配信で当社のゲームについて言及されているのを拝見しました。よければ新作のテストプレイを……って、ええ!?まじ!?」  驚きのあまりベッドから上半身を起こす。テストプレイ、つまりタダ。タダで新作のゲームが発売前に。これ以上の喜びはない。 「いやぁ……『推しカプ』とやらに挟まっててるだけでこんだけええ思いさしてもらえるんやったら、正直儲けもんやわ」  さっそく返信を入力しながら、口元を緩めてにやにやと笑う。「配信で新作をプレイして宣伝して欲しい」という依頼は僕に来たものだが、ゲーム自体はパーティーゲームなので颯斗くんと椿くんも誘って三人でやるのがいいだろう。そうしたら二人の絡みで配信もまた盛り上がって、投げ銭が飛んで、あわよくば好きなメーカーの新作ゲームも売れて……と考えるだけで、口角の上昇が止まらなくなる。  ──ヤトバキ、最高!心の中でそう叫びながら、僕はベッドの上で大の字になった。
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