シレイ

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ーーーーーーーーーー  一際強い風が吹き、泥や垢がこびり付いた古いバケツがガタガタと音を立てて揺れた。夕暮れ時も終わりに近付き、鬱蒼と茂る木々の間にも薄暗闇が広がっていく。白紙の上に一点、黒墨を垂らしたようにじわじわと闇が浸透していく。  バケツが置かれた地面には水が一様に溢れており、小さな水溜りに今もピチャピチャ、と雫が垂れ落ちていた。雫を辿れば、派手な赤色のシャツが水分をたくさん含んだ雑巾のようにびっしょりと濡れ、ちらりと見える肌色を挟んで黒色のジャージが垂直に並ぶ。  小さな体だった。バケツからはみ出ているのはおへそから下半身のみであり、上半身は水の張ったバケツの中へと沈んでいる。足先はピンと張ったまま静止を続けた。  揺れるのは時折、風が強く吹いたとき。バケツの揺れに合わせるようにゆらゆらと動く。そうしてそのまま暗闇が深くなるまで小さな体は揺れ続けた。  その日、テレビのニュースは一斉に告げた。 「ーー3歳の男の子が水の入ったバケツで溺れ死亡しました。死亡したのは〇〇市に住む✕✕くん。警察によりますと、一緒に公園に遊びに来ていた両親からはぐれた際に誤ってバケツの中に落ちてしまい、溺れてしまったとのことです。警察は詳しい事故状況を調べていますーー」
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