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「あとは……これで完成。」
ナパージュでイチゴを艶々に仕上げた後、冬真はそう言いながら何かキラキラした飾りをケーキの上に乗せた。
七星は冬真の背中に緩く抱きついたまま、身を乗り出してその何かに顔を近づける。
そして、目を見開いた。
「わあ……。」
まるで語彙のない感嘆詞が口をついたきり、それ以外の言葉が出てこない。
大きなおはじきみたいな形の夜空色のキャンディーの上に、星型のアラザンが北斗七星の形に並べられている。
どんな魔法を使ったのか、夜空は透き通るように艶やかで、星の一つ一つはごく細い金色の線で繋がれており、そのままピンをつけてブローチにできそうな美しさだった。
その素敵な細工がバースデープレートのように真ん中に乗せられたケーキは、七星にはあまりに嬉しくて、そのまま食べずに氷漬けにしていつまでも保存していたいと思う。
__……北斗七星、僕の名前からイメージしてくれたのかな?だとしたら、すごく嬉しいな。
そんなことを考えては、幸せに浸った。
発情期に大好きな人がそばにいてくれて、しかもその人は七星の大好きなケーキを作る人で。七星の誕生日に、七星のためだけのバースデーケーキを作ってくれた。
幸せを与えられすぎて、もういっぱいいっぱいだ。胸にたっぷりと感情が溜まって、今にもあふれてしまいそうだから、こぼれないように必死になっている。
「蝋燭もつけようか。」
しばらく声を出せずにいた七星に、追い討ちをかけるように冬真がしあわせな提案してくれた。
七星は大きく頷きかけたが、寸手のところで顔を上げる。だって、蝋燭を乗せたらケーキに穴が空いてしまう。
「あの、蝋燭を乗せる前に写真を撮りたいです。それから、しばらくながめさせてください…!」
必死になって紡げば、くるりと冬真が振り返って、耳元でマシュマロみたいな声がした。
「もちろん。でも、その前に。」
「…?」
どくん、どくん。心臓がうるさく騒ぎだす。
背中に緩く抱きついている状態で彼がこちらを向いたものだから、いつの間にか七星は冬真に前から抱きつくような格好になっていた。
目の前に映る彼の端正な顔立ちは、唇は笑っているのに、どこか瞳に憂いが浮かんでいるように見えて。
その表情を見ていると、七星はどうしてか心臓が飛び出しそうなほどドキドキさせられる。
やがて冬真の手が伸びてきて、長い指が優しく七星の頭を撫でた。
頭を撫でていた手が離れると、今度は冬真の顔が近づいてくる。どうすればいいのかわからなくなった七星は、反射的にぎゅっと目を瞑る。
しばらくして目を開けると、冬真の顔は離れていて、唇の前に白い生クリームの乗ったスプーンが差し出されていた。
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《余談》
ぴゅあきゅんBL佳作ありがとうございました…!!
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