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でも、そんな俺の懸念は、意味のないものだとすぐに分かった。
俺の腕の中で、忠成が盛大に泣き始めたから。
今までずっと我慢していた感情を一気に放出したようなその号泣に、柄にもなく俺までもらい泣きしてしまった。
「……有難う」
だから、ややあって忠成がぽつんとつぶやいたそのセリフが、俺にはハッキリと聞こえなかったのだ。
「……え?」
それで、間の抜けた声を出してしまった俺に、泣きはらした目をした忠成が、顔を上げてもう一度礼を言う。
目は腫れてしまっているけれど、今回の上目遣いは、いつものなんて比にならないくらい凶悪に可愛い。
でも場面が場面なだけに、俺は理性を総動員して邪な気持ちを封じ込めた。
「あ、その……えっと……どういたしまして……?」
それで、俺にしては歯切れの悪いしどろもどろな返しになってしまったのだ。そんな俺を見て、忠成がプッと吹き出した。
「秋連らしくない。涙まで出ちゃってるし」
そう言いながら。
その笑顔に、俺は恥ずかしさや腹立たしさを感じるより、嬉しくなってしまった。
忠成が、取り繕った笑顔ではなく本心から笑ってくれた。
それだけのことが、どうしてこんなにも嬉しいんだろう。
「明日から枕持って来るの、やめるよ」
しばしの沈黙の後、決意したようにポツリとそう呟いた忠成が、
「その代わり、色々話聞いてくれるか?」
そう言って、ちょっと照れたようにうつむいた。
「ああ。俺でよければいつでも」
幼い頃からそうやって二人で成長してきたのだから。
ニッと笑い返した俺に、忠成がまた微笑んだ。
明日から、チュウの代わりは俺がする。枕なんかに、その役目を取られてたまるか。
そんな風に思ったのは、顔に出さないよう頑張った――。
[完]
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