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透也さんは、いつも好きだって言ってくれるけど。
もしかして、俺の境遇に同情してる気持ちが大きいのかもしれない。すごく優しい人だから。そう考えた途端、胸の奥がぎゅっと痛くなって、すごく苦しい。
達也さんが俺の手からコップを取って、ローテーブルに置いてくれた。隣に腰かけて、頭にぽんぽんと軽く触れる。
「もし、琉貴くんが気になるようなことを言っていたなら、すまない」
とても優しい声だった。
……慰めてくれてるんだ。
俺はソファーに置いてあったティッシュの箱を取った。泣きながら、ぼそぼそと話をした。達也さんは頷きながら、時々、俺の頭を撫でてくれる。少しずつ少しずつ、苦しい気持ちが吐き出されていく。だんだん眠くなってきて、いつのまにか俺は目を閉じていた。
「な、何で? ど、どうして、ここに兄さんが?」
「早かったな、透也。連絡入れただろう?」
ふっと気がつくと、聞きなれた声がする。
ああ、透也さんだ。……帰ってこられたんだ。
腫れた瞼は簡単には開かない。温かい手が頬から離れていくので、慌てて目の前の体にしがみつく。すると、悲鳴のような声が上がった。
「琉貴ッ!」
横になっていた体を抱き起こされて、温かな手から引きはがされた。冷たいコートの感触が頬に当たる。びくっとして何とか目を開ければ、透也さんが目の前にいた。眉を顰めて真剣な顔をしている。
「……とおや、さん」
「琉貴、泣いたの? 大丈夫?」
こくんと頷くと、透也さんは、すぐに達也さんを睨みつけた。
「兄さん! 琉貴に何したんだよ!」
「何って、何もしてないが。いや、余計なことを言ったかもしれない」
「はぁ!? 余計なことって何だよ!」
透也さんはめちゃくちゃ怒っている。今にも達也さんに殴りかかりそうな勢いだ。達也さんはソファーから立ち上がって、呆れたように言った。
「透也、いいかげんにしろ。落ち着いて、琉貴くんを離せ。可哀想にびっくりしてるじゃないか」
確かに、こんな透也さんは今まで見たことがない。振り向いた透也さんに俺はようやく笑うことができた。
「おかえり」
「……琉貴」
大きくため息をついた透也さんは、思いっきり俺を抱きしめた。
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