寒空の下で食べてみて?【下】

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 すぅ。すぅ。──高嶺くんは本当に眠りだした。こんな風に寝顔を見せて隙を見せ付けちゃっていいんですか。こんな風にキミを勝手に慕う女に、キミと居るだけでおでんを食べたときより、ポカポカする気持ちになってしまうこの私に、そんな風に期待を寄越すなんて。本当に、ずるい人だ。  私は高嶺くんが蓋をして、横に置いたおでんの容器を見て、それからそっとそれを手にした。蓋をあけ、万が一にも高嶺くんの顔にかけて、ブッ飛ばされたらたまったものではないので、起こさないように、しかし動きやすいように高嶺くんが寝ていないほうに容器を置いて、餅巾着を箸でつまみ、汁にひたひたつけてから、かぷ。とかみついた。  じゅわ、と汁が巾着から次から次へあふれ出てくる。──それはさながら私の心のように、高嶺くんへの欲求や想いのように。びよーん、とお餅が伸びている。──されどそれはいつかプチンと切れるもち米の塊。私の気持ちもいつか潰える。  でも、好き。 「おいしっ」  おでんと恋心を比較してみるなんて、色気のないことをする私は、それから高嶺くんちのお迎えの車が来るまで、ひとりで笑顔になって、あったかくておいしい、やさしい味のする餅巾着に浸っていたのだった。 end.
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