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「……美紅。俺以外の男に嬉しそうに笑いかけるな」
右京が人目もはばからずに美紅を後ろからふわりと抱き締めて、
「ま、待って、右京くん! 私、今汗かいてるし、人も見てるし!」
美紅は慌てふためいた。
「だから何だってんだよ」
不機嫌そうにムッとしている右京は、美紅の必死の抵抗も全く気にせずに彼女を強く抱きすくめる。
「うわぁ。右京先輩、心せまっ!」
「ちょっ、市川。それは流石に間宮さんが可哀想だぞ」
天野と村田が哀れみの眼差しを美紅へと向けたが、
「外野は黙ってろ」
村田から美紅を隠すように、更に強く抱き締めた。
「先輩! ここじゃ暑いし、間宮も熱中症が心配だし、早くお店入りましょうよ!」
美紅が可哀想で仕方がない天野は、右京の肩をバシバシと叩く。
右京はゆでダコ並みに真っ赤に染まった美紅の顔を横から覗き込んで、
「……」
不服そうに美紅から離れた。
「お店に着いたら、いいお話聞かせてあげますから!」
天野は自分の方へと美紅を庇いつつ、右京へ引きつった笑顔を向ける。
「言っとくけど、俺がいいなと思う話なんて……」
――美紅に関することでしかないのに。
右京はそう言いかけて、流石にそれは美紅に引かれると思い、言うのをやめた。
「まぁまぁ、まぁまぁ! とにかく涼しい所に行きましょ!」
天野は明るく笑いながら、先頭を切ってファーストフード店を目指した。
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