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佐田の亡骸と親衛隊の少年兵の亡骸は、高機動車より少し遅れて到着した米軍の死体運搬用トラックに積み込まれ、焼け野はらとなった念京の町外れに応急的に作られた死体置き場まで運び込まれた。 地面の至るところに深い穴が掘り起こしてある。穴は、アメリカ兵が面白半分に撃ち殺したり、たまたま虫の居所が悪いときにアクセル全開にした軍用車両でわざと轢き殺した超国人たちの遺体で、ほぼ埋め尽くされていた。 勝てば官軍というぐらいだ。戦争に勝った側は負けた側に対して何をしても咎められることはない。 面白半分に、あるいは風の吹くまま気の向くまま、いつ殺されるかわからない超国人民は、占領軍のアメリカ兵を毒蛇のように恐れ、忌み嫌っている。無邪気にアメリカ兵に群がるのは、チョコレート目当ての子供たちと、生きるためにアメリカ兵相手に身体を売る売春婦たちだけだ。 いったいどこからこんなに大量に集まったのか、穴を埋め尽くす死体の山に烏たちが群がって、不気味な黒い影をつくっていた。黒い影はまるでそれ自体がひとつの巨大生物のように見えなくもない。よくよく見れば、烏に混じって人影のようなものも蠢いている。 死体から金目の物を奪うべく集まってきた浮浪者たちである。集まった浮浪者の大部分が年端も行かぬ子供たちであった。空襲で家族を亡くして生きる場所を失い、頼るものもなく、行くあてもなく、ついには浮浪者にまで身を落とした孤児たちだ。 「ほうら。また餌を持ってきてやったぞ」 親衛隊の少年兵の遺体が、アメリカ陸軍の黒人兵によって穴に投げ込まれた。烏たちは馴れたもので、驚いて飛び去ろうともしない。烏にまじりながら、戦争孤児たちが目を輝かせた。 「ほうら、もう一丁だ。服でも何でも好きなものを持っていきな。ただし喧嘩はやめとけよ。仲良くな。仲良くだぞ」 続いて佐田定信の遺体が投げ込まれた。 烏が気味の悪い鳴き声をあげた。 戦争孤児たちが歓声をあげた。佐田が身につけていた陸軍の軍服は生地が丈夫だから闇市で高く売れるのだ。佐田の軍服は数十発の銃弾を食らって穴だらけだし、そもそもからして血みどろだが、さほどマイナスにはならない。穴のあいていない部分は綺麗に洗えば再利用できる。それを上手く闇市で売りさばけば、残飯シチューが腹一杯に食える。
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