2153年実験中

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2153年実験中

『異常値を測定、避難してください。異常値を測定、避難してください。』  月の都市(ルナシティ)ユグドラシルの研究所内でパトランプが点灯し電子音声が流れる。 「所長! 未確認のワームホール(虫食い穴)が」 「所長! エネルギー制御ができません。暴走します!」  女性所員と男性所員の声がバウムの耳に一斉に飛び込む。 「全員、実験ブースから避難!」  スピーカーを通したバウムの声が、倉庫のような実験ブースに響いた。 「所長! ドロシーちゃんとトトくんが!」  女性所員がマシーンの方を指さした。 「どうして、あんな所に!?」  そこに娘のドロシーと息子のトトを見つけると、バウムは駆け出した。  火花が散る機材の間をバウムは走った。巨大なマシンから何本も伸びた、昆虫の膨れだった触角のような鉄のアームが、稲妻のような閃光を走らせながらドロシーたちの頭上に崩れかけていた。  弟のトトを後ろから庇うように抱きかかえているドロシーがバウムに気づいたとき、青白い光が二人を包み込んだ。 「ドロシー、トトー!」  手を伸ばすバウムの腰に、男性所員がタックルする形で止めに入った。 「ダメです所長! 光速の空気層です、危険すぎます」  見えない風の壁に煽られる二人の横を、黒いスーツの男が駆け抜けた。ドロシーたちに伸ばされた男の手は、 青白い光に届くこと無く粉々に砕け鉄屑と化した。アンドロイドの男は、その反動で床に叩きつけられた。 「ホビー!」  倒れた男の名を叫びドロシーが飛び出そうとした時、眩しい閃光が視界を覆った。ドロシーは目を閉じて、トトの頭を両腕で抱き締めた。  閃光は小さくなると消え去った。静まり返ったブースからは閃光と共にドロシーたちの姿も消えていた。  その場にいた誰もが、それが人類初のタイムスリップ成功となっていようとは知るよしもなかった。
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