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 ロール白菜は上々の出来。立ち上る湯気がいい匂いで、彬光はくん、と鼻を動かして器の中をじっと見てた。炊き立ての白飯はつやつや。新米の美味しい季節は彬光の食欲が1.5倍増しやから多めに炊くのが常やったけど、宇宙人彬光はおんなじように食うんかな。 「ほんま、人間は幸せやなぁ。新鮮や。この体を動かすことの全部が。歩くことも、走ることも、飛び上がることも、服を着ることも、ションベンすんのも、クソすんのも──」 「食うてる時にクソとかゆうな」 「食うことも感動や。慧斗の飯は旨い」  彬光の顔、彬光の声やけど、あんまり聞いたことない積極的な賛辞。いつもは俺が 「旨い?」 って訊けば 「旨い」 ってゆうてくれるけど、そうやなかったらただ黙々と食うとるからな。嬉しくない訳やないけど、やっぱり俺は、ほんもんの彬光からその言葉を聞きたかった。 「お前、マジでいつまで彬光の体におんの。彬光、ずっと寝たままで大丈夫なん?」  箸ですくったぴかぴかの白いご飯を口に運んで訊ねると、 「分からん」 と向こうは向こうでがつがつ食いながら答えた。食い方の情報スキャンはうまくいっとるらしい。こうして見とったら、彬光が食うてるみたいや。 「俺を形成する共同体は、B1の肉体に入ったことがないんや。まず俺らと波長を合わせることが出来る人間がそないにおらへんからな。こんな普通にしとるけど、奇跡的なんやで?あの時お前と彬光が俺を視認して、俺は初めてB1世界に存在できたんや」 「よう意味分からんけど……じゃあなんで俺やなくて彬光に入ったん?」 「俺は最初慧斗に入るつもりやったけど、彬光が前へ出てきたんや」 「前へ?彬光は後ろにおったやろ」 「それは肉体のハナシや。肉体の周りには俺らと同じ、物理的肉体やない個人の領域(フィールド)っちゅうのがあんねや。あんとき彬光のフィールドが大きゅうなって慧斗を包んだから、フィールド的には彬光の方が前におったんや」  宇宙人彬光が説明する状況がまるで彬光が俺を守ってくれたみたいで胸がどきんとした。そんなこと、あるやろか。あの一瞬で、彬光が俺を──  そう考えたことを正確に読み取った宇宙人彬光が、 「ほとんど反射やからな。守ろうっちゅう意識かどうか微妙やな」 と何かを思い出すような目をして言った。反射やったら余計やん。無意識のうちに俺を庇ったってことやないん。でもそれを、ほんもんの彬光には訊けへん。彬光がここにおらへんから……  
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