若葉の芽吹き

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若葉の芽吹き

 高校二年の始まり、  私は大きく貼りだされた白い模造紙を見上げた。  生徒専用昇降口。    いくつものボードに、何枚もの模造紙が貼られている。  クラス替え名簿にみんな釘付けだ。  一喜一憂の声があちらこちらから聞こえてくる。 ──私は何組になったんだろう。  多少の不安と、 ──誰と一緒になれるんだろう。  いくばくかの期待。  A組から確認しているけど、いまだ私の『緋桐(あかぎり)月乃(つきの)』が見当たらない。  新二年生の人混みは、昇降口前を占拠。“ごった返す”が当てはまり、大変な騒ぎになっている。  新三年生のクラスは、二年生からの持ち上がりなので、私達を懐かしそうに眺めたり、または邪魔そうに威嚇したりと、やや異様なムードではあった。  中学時代は先輩の圧に屈する上下関係だったけど、高校生にもなるとそこに対等感が混ざるから、威嚇にも怯まなくなるみたい。みんな強いな……。  私からボードまでの距離は遠く、名前を探しきれない焦りが不安を織り交ぜ、この場の空気にめまいを覚えた。 ──ひとまずここから避難しよう。  そう思い、人混みから抜け出してみる。  満開らしき大きな桜の木が、むこう側に立っている。 ──そこで少し休もう。  人混みをかき分け抜け出すと、桜の木には先客があった。 「月乃ー! こっちこっち〜♪」  小柄な体をピョンピョンさせて私を呼ぶ声の主は、カオリ。その隣にはすらりと背の高いトモミが、 「月乃ぉ、私達おんなじクラスになったよぉ〜」  と、私を呼んでくれている。  ようやく二人のもとへ辿り着いた私は、ぼやけためまいなどすぐに吹き飛ばし「ほんとに?」と喜びを分かち合った。 「私、名前全然見つけらんなくってさ」  私が頭をぽりぽりさせ言うと、背後から男の子の声。 「緋桐の“あ”はア行で探しやすいから、月ちゃんの名前すぐに見つけたよ。ま、蒼井(あおい)とセットだったけどな。俺とは三年間一緒だ、よろしく」  振り向くとそこには、柊木(ひいらぎ)くんと、蒼井くんの姿が。二人セットって言うことは──、 「そういうこと。二年間よろしく」  蒼井くんの言葉に、こちらこそと言いかけた私の声を、カオリの声がかき消す。 「みんなでヨロシクねー♪」  こうして揃うなんてすごいな。  信じられないよ。  戸惑いながらも素直に嬉しい気持ちは溢れ出て、階段昇る足取りは、春の陽気に包まれていた。
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