◇1.プロローグ

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◇1.プロローグ

 降水確率100%。朝、傘が必需品だとしきりに訴えていた天気予報士の言葉はバッチリと当たっていて、土砂降りの雨が今も止む気配も無く降り続いている。  くすんだ天井のシミを眺めるのにもいい加減飽き飽きして、重い腰を上げビニール傘を片手に、勢いよく家を出た。玄関の扉を開けた瞬間、顔に降りかかる冷たい雨雫に心が折れそうになる。ガラス一枚隔てて見るのと大違いだ。理性と常識が後ろ髪を引くけど、勢いと直感で私は足を踏み出した。人が消えた様な街並みを歩きながら、物語のワンシーンになりそうな気配を探す。  冠水して湖の中から生えている様に見える街路樹、リズミカルな旋律を奏でるトタン屋根、その軒下で雨宿りする茶トラの野良猫、暗闇に浮かぶ赤い『止まれ』の標識、雨粒の中で煌びやかな光を放つ駅前の古い商業ビルのネオンサイン。  見つけるたびに、心の中でシャッターを切る。この情景を美しいと思える感性を備えた生き物である事に嬉しくなる半面、こんな物に価値を見出す人間は世の中には自分だけなんじゃないかと酷く不安になる。歩きながら、そんな事ばかり考えてしまう。  
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